[コメント] 探偵マーロウ(2022/アイルランド=スペイン=仏)
ニール・ジョーダンが、リーアム・ニーソンを信頼し、肩の力を抜いて、楽しんで作った、というように感じられる出来だ。冒頭は、樹木(椰子)のショット。ティルトダウンして、家屋の窓へ寄って行く移動撮影だ。ベッドで寝ている男、ニーソン−マーロウが起きる。ラジオでナチスのポーランド侵攻のニュース。1939年10月のカリフォルニア、ベイシティ。次にビルの窓に赤い服の女性が見える。ゆっくりとパンしながらトラックバックすると、事務所の窓から、向かいのビルの窓を見るニーソン。オープニングからいい調子だ。こゝに、依頼者の美女−ダイアン・クルーガー】がやって来る。
設定やプロットには極力触れずに、主要キャストと良いシーンについて書こうと思う。まずは、クルーガーの母親がジェシカ・ラングで、ガルボみたいな元映画女優。登場は白馬に騎乗したシーンだ。馬の額から鼻の線が垂直になっているカッコいい騎乗姿なのだ。ニーソンとクルーガーとラングの3人が本作のメインのスター。3人が顔をそろえるのはラスト近くのレストランのシーンだが、この場面におけるクルーガーのテーブルの上ぶっちゃけ演技が素晴らしい。
ハードボイルド探偵モノの通弊に違わず、これも込み入ったプロットを持つ作品だが、上で書いた、クルーガーのシーンみたいな、ハッと驚かせる演出が随所に散りばめられているところが、この面白さの所以なのだ。例えば、ニーソンが撮影所でアマンダという端役(?)の女優にインタビューする場面。右目に被弾したメイクのまゝ、休憩中に取材する、このぶっ飛んだ絵面には笑ってしまう。あるいは、事件の黒幕2人(と一応云っておく)ダニー・ヒューストンとアラン・カミングが集結・収束する会員制クラブ(コルバタクラブ)の拷問部屋の場面も凄い。カミングの黒人運転手セドリック−アドウェール・アキノエ=アグバエは、登場シーン(気絶しているニーソンを起こす場面)でもトミーガンを持っていたが、このクラブの場面ではトミーガンを思わぬ方向にぶっ放す。
あと、警察側の人間の描写もいい。2人の刑事、ジョー−イアン・ハートとバーニー−コルム・ミーニイの両者とも、血の通ったキャラ造型で、映画として懐深い情感創出に寄与している。そして、何度か異なるバージョンがBGMとして使われる、「アイル・ビー・シーイング・ユー」がムード醸成に効果を上げる。劇伴でもマイナーキー(短調)にアレンジして使われているが、何と云っても、ニーソンとクルーガーがダンスをする夜の玄関ポーチで流れる、ビリー・ホリデイ版に感激する。
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