[コメント] 君たちはどう生きるか(2023/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
高1の子どもに勧められて見に行った。子はそれなりに映画が好きでハリウッドものはよく見ているが、モノクロ映画に手を出すほどのマニアではない。ジブリはそこまで見ていなく、今回もクラスメートに誘われて見に行ったそうだ。
子:お話ってほどの話はないからそのつもりでね!
私:大丈夫、私はそういう映画も好きだから。古い映画にはそういうのも多いよ
子:古い映画? 「ローマの休日」?
私:「ローマの休日」はめっちゃお話があるよ、ラブコメだよw
子:チャップリン?
私:いやいや、それも違う。イタリアやフランスの映画だよ、古いヨーロッパ映画にはそういうの多いんだよ
子:たとえばどんなの?
私:有名なのはフェリーニの「81/2」とかゴダールの「勝手にしやがれ」とかかなあ
といった会話が事前にあったので、本当に「81/2」でびっくりした。まさにいろんな意味でマンマミーア!だった。
ともあれ、冒頭の「寝間着のまま父について病院に向かおうとしたが、いったんもどって洋服に着替える」シーンから画面に釘付けだった。半年前、パジャマのまま夜明けに母を看取ることになり、いざ医師を家に呼ぶにあたってあわてて着替えたことを思い出したからだ。すっかり息のとまった母の横で泣きながら着替えたときの記憶が、気持ちが、母のいる場所が火事であると聞き動転しながらも着替える少年の姿を見てよみがえった。そして、こういった非常時の人間の「滑稽でさえある行動(本人としては冷静であろうとしている行動)」を丁寧になぞってくれる映画は信用ができると思った。
その後も要所要所の行動や所作にはっとさせられ、胸をつかれた。後半ちょっと雑にゆらいでしまったが、少なくとも前半は感嘆しきりだった。たとえば初めての食事シーンなんて素晴らしいことこのうえない。 品良く食事をしながらも「まずい」とつぶやく主人公。その一言で、一見礼儀正しく見える少年が実はただの甘ったれだということも、まだそこでの生活になじめてなどいないことも、実母への思慕を断ち切れていないことも伝わってくる。そりゃー、彼なら石で自分の頭を打ちもするよ。
とにかく、だからこそ、最初は不気味で謎めいていたアオサギがうざいおっさんと化した辺りからその「生活感ただよう丁寧さ」がやや薄れてしまい残念だった。とはいえ、あれは日常と大きく乖離した世界への出発でもあったから仕方ないのかもしれない。積み上げて来たモノローグ的な世界観が、もっとコミュニケーションを必要とする世界観へと切り替わった瞬間でもあったのだから。
帰宅して、子どもと映画について話しあった。子どもは「映画にはメッセージがあるものだ」と思っていたそうで、よくよく話を聞くと、話にこれといったドラマがないということよりも、「何をぼくたちに伝えたいのかがわからない」ということに面食らったとのことだった。タイトルや冒頭のシーンなどから、もっとわかりやすいメッセージがあると思っていたがそれはなく、最後までよくわからなかったと。
私は母親なので「あー、あれはママ大好き!って映画で、伝えたいのはそこなんじゃないかな」とは恥ずかしくて言えず、適当にお茶を濁してしまった。そして、なるほど母親への思慕など思春期まっさかりの、「おかあさんはうざいよ」世代にはピンとこないよなと妙に納得もした。
子:君たちはどう生きるか?ってことの答えが出てくるのかと思ってたんだよね。
私;それは実のおかあさんが残した本として出てきたし、そこから冒険が加速するんだから問題ないんじゃない? 君たちはどう生きるかってタイトルに惹かれたなら、吉野源三郎のを読めばいいじゃん。
子:それはもう読んでる!漫画だけど…。だから映画もあんな感じなのかなあって。
私:タイトルに本や曲のタイトルを引用することなんてよくあるんだから、それにとらわれることはないよ。そもそも映画に学びなんてなくてもよいの。ものによっては話だって追わずともよいの。ただ映像や音を楽しむだけでも。映画の最初期なんて機関車が走ってくるだけだったんだから。
子:それだけ?www なら見てるあいだはおもしろかった。
私:私も。
テーマはマンマミーアでも、監督が伝えたかったのは映画のアクションや音のたのしさみたいな、ごく原始的なことだったのかも。すくなくとも我が子はそういった映画のたのしみかたもあるとわかったようだし、こういった映画も人気になればうれしいなあと。
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