[コメント] 生きているのはひまつぶし(2022/日)
日本中が閉塞感に覆われた2020年春の緊急事態宣言下に、映画制作の中断を秘儀なくされた渡辺紘文監督のセルフドキュメンタリーだ。国民に「自粛」を訴え続ける安倍晋三の声を聴きながら、渡辺は机に向かって子供のころから好きだたっという絵を猛然と描き続ける。
映画は白黒の固定ショットで捉えられた狭い部屋のなかの渡辺の姿と、カラフルな絵筆やクレヨンによって描かれてゆく手元の画用紙のカラー映像で構成される。そのコントラストが鮮やかだ。それは孤独のなか激しく発散される渡辺の創作パッションのようだ。
絵を描く行為はどこまでも個人による孤独な創作活動だ。一方、映画製作は集団コミュニケーションによる創作活動だ。だから一心不乱に作画へ没入する渡辺の孤独な姿に、仲間たちとの映画製作を封印された男の怒りのようなものが滲む。
一転、ラストシーンは再開された『テクノブラザーズ』の撮影シーンで締めくくられる。役者たちの動きと撮影監督の段取りが繰り返される。撮影現場の何でもないやり取りに流れる清々しい高揚感。それは生身のコミュニケーション復活宣言であり、最も素朴な映画賛歌なのだ。そんな創り手の復活の喜びをみて、私たち映画ファンもまた映画の意義を再認識するのだ。
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