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[コメント] ナチスに仕掛けたチェスゲーム(2021/独)

邦題はまるで頓珍漢。本作はナチスの暴虐さ、非人間性を真っ向から告発する映画だと思う。
シーチキン

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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「仕掛ける」なんていうのはまったく見当違いだし、チェスについても主な題材ではあるが、その一つに過ぎないと思う。

本作はいわゆる「夢落ち」に類する話ではあるが、そう表現するのはいささか憚られる。私の語彙が乏しいから、そう言うが、主人公が、そのような、いわば「妄想」をいだいた背景には、ナチスの拷問による精神破壊があるのではないか。

妻のアンナはおろか、チェスの世界王者も、彼との試合も、そしてNYへの船旅そのものが、精神を破壊された主人公の、空想のものだったのではないか。

彼の乗船にあたっての偽名は、唯一、手に入れた外界とのつながりであるチェス教本に載っていたプレーヤーの名前だったのだろうし、世界王者との賭け試合にその腕時計を要求し、とり返したのは、釈放にあたっての返還だったのだろう。

一人の人間をそこまで追いやったナチスの悪どさを容赦なく描いた映画だと思う。

あと、豪華客船での時計の逆回りを使ったアイディア、シーンは秀逸だった。

最初はヨーゼフだけに時計が逆回りしているように見えて、それをきっかけにホテルでの「特別処理」の記憶が蘇ってくる、と思っていた。つまり時計の逆回りは彼の「妄想」だと思っていた。

それが何回目かに、一緒にいたバーテンダーがあっさり「長距離を移動する船旅だから、時刻の調整を自動でするんですよ」と説明する(本当に豪華客船にはそんな仕掛けがあるのかどうか、乗って旅したことないからわからんが)。

そのことによって、時計の逆回りはヨーゼフの「妄想」ではなく現実のことだったのだと強く印象付けられるが、船旅そのものがじつは「空想の産物」だったというラストに、余計に驚かされた。

(評価:★4)

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