[コメント] キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン(2023/米)
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どうも作られ方に釈然としない。大筋としてはオクラホマで石油利権で世界一の大金持ちになったネィティブアメリカンのオーセージ族の人々が次々と怪死する事件が起こり、姉妹や母を相次いで亡くし、自分も命を狙われていると察知した女性が、地元警察は何もしてくれないと大統領に捜査を訴え、後のFBIにつながる捜査官が事件の解明のために派遣され、ついに黒幕であった女性の財産後見人を逮捕するという話である。話の要点は「石油利権」があり、「連続殺人事件」が起こり、その背景にある「人種差別」を暴く作品、といえる。
オーセージ族は自分たちの土地から採掘された石油受益の相続権を有し(このあたりもともと住んでいた土地を追放され流れ着いたオクラホマでまさかの石油が採掘されたので彼らに権利が渡ったということなのだろうか)白人を給仕や運転手など召使として雇い貴族のような暮らしをしているのだが、その実白人たちからは教養がない「無能力者」とされ白人を後見人とする制度を義務づけられ財産管理権を奪われている。見た目と実態で逆転現象があり、裏で白人がネィティブの人権を蔑ろにし搾取しまくっているという、裏でがっちり結ばれている強力な利権構造があるがゆえに、オーセージ族連続怪死事件の捜査が難航し、ついにはFBIが真犯人を逮捕するのだ。そういう骨子である。
ヘイル(デ・ニーロ)は冒頭から最初のターゲットであるモーリーの妹を睨みつけ、悪党全開で登場し端から真犯人であることはほぼわかるので、そもそもこの作品は犯人を誰何するミステリーではないという作りなのはわかるのだが、じゃあなんだという感じなのだ。テーマはあくまでも「白人たちの罪を暴く」というもので、自ら夫と夫の叔父に毒を盛られているのではないか、という疑念をいだいたネィティブ女性が真相の究明を大統領府に訴えて、捜査した結果、黒幕はやはりヘイルだった、というわけだ。黒幕が大方の予想どおりだからミステリーとしては面白くない、なんだけど、話の骨子は「真実の解明」なのだ。真実の解明がミステリーに直結していない。ここが作り方に釈然としない感じがする理由だろう。つまりこれはモーリーを主役にすえて、ネィティブをリスペクトしネィティブ社会に貢献した篤志家の義父こそが黒幕だったのだ、というミステリー仕立てのほうが切り取り方が断然自然なのだ。
じゃ何でそうしないのかというと、きっとネィティブ女性を主役では映画にならないということだろう。そこに作品構造のいびつさがあるが、アメリカ社会が西部劇時代の黒歴史であるネィティブ虐殺を近代社会でも行っていたというタブーを描くことの難しさもあるのだろうからモーリーを主人公にしないのはまだわかる。一番わからないのが叔父のいいなりになるがまま犯罪に加担するアーネストがなんで主人公なのかということだ。まったくもって主人公になりようない人物を無理やり主人公にしているので、叔父と妻の間に挟まれた彼の葛藤のようなものを描かざるを得ないのだが、やっていることがあまりに下卑なのでその煩悶にほとんど共感できない。妻に盛っていた毒を自分でも飲んでみて何ともなかったという描写があるが、彼を苦悩する主人公に描くための強引な場面に思う。結局アーネストは手下でしかないのに主人公だという作りに釈然としないのだ。
本作の原作は「花殺し月の殺人 インディアン連続怪死事件とFBIの誕生」というノンフィクションで、実はFBI捜査官トム・ホワイトは原作的に重要な配役なのだ。主人公モーリー、適役ヘイル、そして連邦捜査官。この3人の物語であればもう骨子どおり、もう映画の構図が見えてくる。で、実はディカプリオが当初この連邦捜査官トム・ホワイト役だったのを、本人がアーネスト役を希望し変更したみたいなのだ。これで釈然としなかった理由がはっきりしたのだった。
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