[コメント] 首(2023/日)
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武の思考回路で戦国策謀合戦を撮ったら当然正攻法になるわけがなくヤクザものになるだろうし、それは方法論として絶対ありだと思うのだ。そんな中で台風の目になる加瀬亮の信長とか、年齢のことは措いてもたけしの老獪な秀吉はそりゃ絶対観たいでしょ、という期待で観に行って、全くその通りだった。『アウトレイジ』の最終作があまりにもヤケクソな遺言的だったので、もうこういう作品は望めないかな、と思っていたのだが、ここにきてこういうのが観られて嬉しい。アウトレイジ の最終作で私が期待していたのはこれなのだ。無常感に浸るナルシズムより、一歩引いて皆殺しにして「人間てくだらねえ」と嘲笑しているくらいが武には似合っている。「青」を「赤」で無造作に汚す自虐的しかしエネルギッシュなタイトルから期待値が高まった。挟まれるコントが下らなければ下らないほど大量生産される死の無意味が際立ち素晴らしい。コントに対して、人がゴミのように肉塊になるシーンは紛れもない本気なのだ。首の肉を漁る蟹の描写の凄まじさ。大判小判をばら撒く粗雑さ、ラストの「首」ラッシュ(この加速度!)と不謹慎な鑑定コント、首を蹴飛ばすシーンも荒削りだが傑作だ。
同性愛のモチーフが入ったのはちょっと戸惑いがあるところなのだが、私の中では「痴話喧嘩」だったのだ、という諧謔の解釈で片付けてしまった。
渡河シーンで嘔吐するのは、「今までゴメンね」と舌を出したのだろう。ここはメタな可笑しさがある。タイプキャストはほとんどマンガ的にきっちりハマっているが、本多忠勝には違和感(あんまり強そうじゃない。実体は半蔵だ、という解釈だろうか)。劇場で一番笑い声が起きたのは、信長の密書を秀長が読み上げた後の、秀吉、秀長、黒田官兵衛のコントだった。アドリブでも入ったのだろうか。生な間の可笑しさがあった。加瀬亮の良さは言うに及ばずで、青筋が立ってるだけでなく充血して目が潤んでいるところまで作り込まれていて素晴らしい。しかし、助演男優賞が木村祐一であることは衆目が一致するところだろう(「みんなアホや」)。彼には生き抜いて欲しかったが、彼の達観と洞察をもってしても死までは欺けず、死ぬべくして死んだ。
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