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[コメント] 裏町のお転婆娘(1956/日)

タイトルは「ジャズオンパレード」「1956年」「裏町のお転婆娘」という文字列が、それぞれが一つずつ飛び出るようなかたちで表示される。「ジャズオンパレード」は終盤で演じられるショウの名前。
ゑぎ

 「裏町のお転婆娘」は、このショウの中の最後の(映画全体としてもエンディングの)出し物のタイトルで、主人公の江利チエミがタイトルロールということになる。

 本作は特別出演含めて当時の日活のスターや軽演劇のコメディアンが多数顔を見せる、とても楽しいミュージカルだ。ただし、独唱シーンは、ほとんど江利が受け持つ。江利以外では、フランキー堺に一曲あったのみ。先にフランキーの曲のことを書いておくと、「セプテンバー・イン・ザ・レイン」を大真面目に唄う。ただ、女性ボーカルのような高い声で唄っているのはワザとだろう(だから真面目じゃないのかも)。江利は合計5曲ぐらいのミュージカル場面があったと思うが、中でも「サイド・バイ・サイド」とか「セ・シ・ボン」といった、英語歌詞のスタンダードナンバーを唄うシーンで、真価を発揮すると思った。

 他の主だった役者だと、フランキー堺の友人たちとして、長門裕之岡田眞澄桂典子がいて、この4人は流しのチームだ。江利チエミは銀座すずらん通りを歩く後ろ姿で登場するが、登場間もなく、レストランで無銭飲食をし(カレーライスを3杯ぐらい食べる)、店内で歌を唄い、他の客からお金をもらうのだ。これにより、シマを荒らしたと連れて行かれた流しの溜まり場で、フランキーら4人と出会う。基本、この5人(江利+4人)が演者としてショウは企画されるのだ。ただし、最終的な上演に参加しているのは、フランキーたち4人が以前から慰問に通っている孤児院の関係者の芦川いづみ、年長の孤児の浅丘ルリ子(15歳ぐらい)なんかがいるし、多分本人役ということなのだろう、南田洋子月丘夢路新珠三千代北原三枝といった映画スターたちも参加している。ちなみに、上にあげた中で、芦川いづみは江利チエミに次ぐ二番手の主演に近い役割りと云ってもいいと思う。

 また、ショウの出資者として、20世紀プロダクションという会社の社長−内海突破とプロデューサーの有木山太がいて、あと、彼らが口説いた質屋の森川信、土建屋の親分の三島謙がいる。この出資者たちを集める段取りの顛末もかなり面白い。また、本作の冒頭は、内海と有木のコンビが芸能界の大物・大山庄之進(役名)に面会をしようとして断られる場面であり、この二人が中盤まで、多くのプロットを展開させる、重要な役割りを担っている。そして満を持して登場する大山は、菅井一郎が演じていて、ショウが開演できるかどうかの鍵を握る人物になる。肉親の情に訴えられても、慈善事業には興味がないと、決然と云う菅井のビジネスライクさがいい。また、菅井の執事を演じる小笠原章二郎も、内海らから押し付けられた袖の下を嫌々ながら懐に入れる演技など、見せ場のある良い役だ。

 終盤のショウについては、スケールは大きくないが、シンプルな書割を中心とする木村威夫の美術もいいし、ミュージカル演出も洒落たものだし、当時の映画女優は、宝塚や松竹の歌劇団出身が多く、ダンスのみならず、ひとつひとつの動作にキレがあり、見ていて本当に楽しかった。実に良く出来たミュージカル映画だと思う。

#備忘でその他の配役等を記述します。

・冒頭の邸宅場面で現れる書生?は羅生門綱五郎だ。『用心棒』の5年前ぐらい。

・銀座の流しのアジトを仕切っているのは木戸新太郎(キドシン)。三島の子分。

・朝、長門らを起こすのは、澤村國太郎。長門や津川のお父さん。童謡詩人役。

・孤児院を営んでいる篤志家は坪内美詠子。その子が芦川いづみ。

・江利チエミが信州でお世話になったお爺さんは汐見洋

・ラストのショウの、女と男のスリ対決の場面。女は月丘、新珠、北原。男は、フランキー、岡田、長門かと思うと、長門ではなく、市村俊幸だ。これも驚く。そして、歌唱は当時シャンソン歌手として有名だった高英男

・月丘、新珠、桂典子(新珠の実の妹)は宝塚、北原は日劇ダンシングチーム、芦川は松竹歌劇団出身。

(評価:★4)

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