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[コメント] あんのこと(2023/日)

アバンタイトルは商店街を歩く女性の後ろ姿、その仰角ショット。少し画面が揺れている。浮遊するようなカメラ。仰角バストショットになって、河合優実。この正面ショットも揺れている。
ゑぎ

 このアバンタイトルはフラッシュフォワードだ。終盤の彼女が、ある決意をする場面だと、見終わった頃に分かる。

 本作もまた、冒頭から全編に亘って、ほゞドキュメンタリータッチの冷徹な視点を突き付ける映画だ。固定ショットもあるけれど、やはり動揺を表現する場面は、シェイキーな手持ちになる。特に、母親−河井青葉と祖母−広岡由里子が住む団地のシーンは、もう全部手持ちだったと思う。

 また、タイトルでも自明の通り、全体としては全くタイトルロール−河合優実の女優映画だが、しかし特に前半は、刑事役の佐藤二朗とのダブル主演と云ってもいいぐらい彼が目立っている。こゝでも佐藤が怪演だ。取り調べの途中でヨガを始める部分が、本作の一番のチャームポイントだと云いたいぐらいだ。思わず河合もニヤけてしまっている。あるいは、煙草のポイ捨て、道路へのツバ吐き。河合に煙草ぐらい吸っとけよ、みたいな科白。佐藤に比べると、稲垣吾郎はもとより、河合だってイマイチ面白くない造型と思う。後半になって佐藤が出てこなくなると、少なくも私は、映画の求心力がかなり減衰してしまったと感じられた。

 ただし、佐藤の存在感は全体のバランスを崩すギリギリの危うさであることも確かだろう。例えば、上述の取り調べ場面は、ぶっ飛んでいて映画として面白いと思うが、赤羽サルベージでの講義場面になると、私は臭いと感じる。さらに、後半退場したかと思っていた佐藤(と稲垣)が、終盤になって再登場し、河合について語るシーンは不要だろう。終盤にこの2人が一切出ない方が、登場人物のみならず、観客をもより突き放した感覚が出ただろう。

 あと、白飛びした(露光オーバーの)ベランダのショットで、ブルーインパルスのスモークを映した画面造型には驚いたが、この後の、宙を舞い落ちる日記の1ページというメタファーは、とても幼く感じてしまった。私の感覚だが、こういうのを見ると学生映画みたいと思ってしまう。可愛いとも云えるが。

 それから、アバンタイトルはフラッシュフォワードだと書いたが、もう一つ、明確なフラッシュフォワードがある。それは、児童相談所での早見あかりのショット挿入だ。この構成は実に太々しくていい。

(評価:★3)

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