コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 九十歳。何がめでたい(2024/日)

草笛光子に対する賛辞については前作(彼女の映画作品における前作)『老後の資金がありません!』のコメントでしっかり書いたので、こゝでは本作に対して普通に感想を書きます。
ゑぎ

 起床シーンから始まる映画の系譜。起きてすぐに草笛が着るエメラルドグリーンのカーディガンを見た時点で、やっぱり色遣いのセンスを感じる(『水は海に向かって流れる』を想起)。玄関の郵便受けから新聞を取り、人生相談コーナーを読む場面になるが、まず玄関前の佇まいをきちんと印象付けるのは、意味があるだろう。以降、この場所のショットが何度も反復されることになるのだ。また、草笛が新聞を読むその側に、相談者−木村多江と回答者−清水ミチコを出現させ、正面ショットの切り返しで繋ぐ。このシーンも後々に効いてくるが、相談への草笛の介入の扱いは、ちょっと引っかかる。こゝに唐沢寿明の後ろ姿ショットが挿入され、彼の出版社での状況が描かれた上で、松陰神社前駅の踏切のショットで草笛に戻る。夕陽の中、ベンチに腰掛けるショットでタイトルイン。

 というワケで、この長いアバンタイトルの中に、既にコメディ演出がいくつかあるのだが、悉くリズムが悪いと感じた。映画の出来としては『水は海に向かって流れる』と『ロストケア』がまあまあ良かったので、『老後の資金』よりは面白くなっているかと期待していたのだが、コメディ演出の難しさを痛感するという次第だ。

 全体、唐沢もオーバーアクトだが、草笛の口跡と科白の間も、コメディとしてはイマイチだと感じた。これは監督の責任だろう。実を云うと三谷幸喜のパートもかなり期待していたのだが、『老後の資金』みたいには面白くない。こちらはスクリプトの責任と思う。いや、コメディ演出と離れても、終盤の草笛と唐沢のシーンのフラッシュバックが、ベタすぎるという以上に、一度見たテイクの繰り返しであることにゲンナリする。

 良い点も書いておくと、草笛のナレーション挿入とイメージ映像的処理で紡がれるエッセイの画面化部分は悪くない。子供の声や町の音についてのエッセイでは子供たちの映像、あるいは犬のハチの映像には、当然ながら心揺さぶられる。これと同じような、主軸のプロットから少し突出するような画面造型として、唐沢の娘−中島瑠菜の、ダンスコンクールの場面がある。こゝの光の取り入れ具合はなかなか良かった。

 他にも唐沢が家族アルバムを見る場面での、年賀状写真、草笛と孫−藤間爽子によるコスプレ写真の連打は、撮影現場が想像されて、リッチな感覚が出る。これがエンドロール中に本物を見ることができる(エンドロールの左側に佐藤愛子の写真が子供の頃から紹介される)のだが、確かにこのエンドロールは一見の価値がある。

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。