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[コメント] メイ・ディセンバー ゆれる真実(2023/米)

メインの時間軸は、2015年。ラスト近くの卒業式のシーンで明示される。舞台となる街はサバンナ、ジョージア州。クレジットバックは花にとまる蝶のショットで、これは隠喩として活用されるのだろうと予想する。
ゑぎ

 大仰な劇伴とカッコいいタイトルデザイン。続く建物の外観ショットが、ずいぶんとヌケの悪い画面、荒い粒子が目立っており、吃驚すると共に、危惧もしたが、これが全編継続する。いや、これも本作のムード醸成に資する戦略だ。

 扱われる事件は1992年。23年前の出来事で、グレイシー−ジュリアン・ムーアが36歳、ジョー−チャールズ・メルトンが13歳の時。ただし、フラッシュバックは一切なし。これは私の好みだ。昔の写真、という形で過去を見せる部分はある。2015年現在、2人の子供は3人。双子の男女は、もうすぐ高校を卒業して大学へ。双子の上に女の子。この子を獄中で出産したということか。

 家には大きな犬が2匹いて、ジョーは蝶を育てている。モナーク蝶という大きなタテハチョウ。絶滅危惧種なのか、この蝶の卵の付いた葉っぱをカゴに入れ、保護して増やしているのだ。2015年のお話は、ほゞ蝶の卵が幼虫になり蛹になり孵化するまでの期間だと云うことができるだろう。こゝにもう一人の主人公、女優のエリザベス−ナタリー・ポートマンが投入され、彼女が1992年の事件の当事者(ジョーとグレイシー)、関係者(グレイシーの元夫や当時の弁護士など)にインタビューをする様子が描かれて、プロットが駆動する。もっとも邦題でイメージされるような真実を追求する、といったものではなく、エリザベスが当時の状況を把握する過程を通じて、彼女も含めた登場人物たちの深い苦悩と、思いもかけないような戦慄する瞬間が描かれている。

 全編強烈な緊張感を維持する作品だが、ポートマンとムーアの2人がツーショットで鏡を見る長回しショット、これが2度あるということは書いておきたくなる。最初は、グレイシーの化粧方法(道具や手順)をエリザベスが教えてもらう場面。この場面は鏡のミタメと云ったらいいか、観客の視点が鏡になったような演出だ。グレイシーが自分の道具でエリザベスに化粧するという状況に発展し、2人の相似性が強調され、気持ち悪いぐらいザワザワさせられる画面として提示される。そして、もう一つが、卒業式前日のレストランの化粧室での会話シーン。こちらは、鏡に映った2人のツーショットであり、先のシーンよりは客観性を高めて、グレイシーがエリザベスを突き放すように扱う状況が巧妙に演出されている。

 また、グレイシーには急に取り乱して泣き出す場面が2回あり(いずれもジョーだけがそれを見る)、普段大らかに見えるジョーにも泣いたり激昂したりする場面があるといった構成も緊張感持続に寄与する。ジョー役のメルトンが本作でオスカーノミニーというのもうなずける造型だ。もう一人、演者で書き留めておきたいのが、グレイシーの前夫との息子で、エリザベスが弁護士にインタビューするレストランの場面で現れるジョージー−コーリー・マイケル・スミスだ。これが傍若無人なキャラ造型。この人は『コール・ジェーン』で注目した役者で、私は見る前から期待していたのだが、充分期待に応えてくれたと思う。

 さて、全編通じて、私はグレイシーはもとよりエリザベスもある種のサイコパスだと感じた(広義のサイコパスだと)。終盤の卒業式後の会話シーンで、やっぱりグレーシー−ムーアの怖さが一枚上手だと思わせて(凍りついたような表情のポートマンからトラックバックするショットの効果)、ラストはポートマンで締める、というのも上手い。ラストシーケンスのカメラの視点が、グレイシーのみならず、エリザベスの虚偽性も複雑化し、震撼とさせられる。これらに先立つ卒業式前の朝の時間、孵化したモナーク蝶を空に放つジョーと、2匹の犬と共に猟銃を携えて散策するグレイシーの対照的な提示が、分かり易すぎると感じられただけによけいに。

(評価:★4)

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