東京拘置所の空撮。この建築物の形状含めたバッテンイメージの連鎖。これは明確な謎の提示なのだが、それはラスト、というか、エンドロール途中まで明かされない。

　すぐにタイトルロール−柳楽優弥のナレーション、独白が入る。劇中、彼の心の声モノローグも何度か入り、漫画原作の映画によくある私の嫌いなパターンだと思ってしまったが、鬱陶しくなるギリギリの過剰さだろう。本作は当然ながら、柳楽が主人公なのだが、まず最初に書きたくなるのは、彼の結婚の相手、連続バラバラ殺人の容疑者として逮捕され、既に一審で死刑判決が出ているヒロイン−品川真珠−黒島結菜についてだ。この映画、尺的には柳楽と黒島のダブル主演と云うべきだが、いや圧倒的に黒島の造型の面白さが支えている映画だと思う。特に、序中盤の彼女の得体の知れなさは出色の出来で、めちゃくちゃ面白い。面会室のアクリル板を挟んだシーンの顔演技は圧巻だ。

　このような作品の常で、後半になって彼女の正体が少しずつ明らかになるに従ってその面白みも減衰してしまうのだが、控訴審公判中に黒島が傍聴席との柵を飛び越え、柳楽に向って躍りかかるシーンあたりがクライマックスだろう。この演出にはゾクゾクした。同時期に公開されている作品で『ラストマイル』−満島ひかり、『ナミビアの砂漠』−河合優実、『愛に乱暴』−江口のりこ（この江口も臭いを嗅ぐシーンが反復される）、といった映画の女性主人公、あるいは『ぼくが生きてる、ふたつの世界』−忍足亜希子なんかを含めた女優賞候補の中でもワタクシ的には本作の黒島結菜を一番に推したいと思うぐらいだ。

　さて、人物関係の基本設定や殺人方法、警察や検察の捜査以上に柳楽と弁護士の中川大志が謎を解決するといった非現実的な展開は気になるけれど、この映画の主眼を考えると許容範囲だろう。中川のカタブツなキャラ作り、死刑囚アイテムコレクター−佐藤二朗の（いつもながらの）やり過ぎすれすれの演技も私はいいと思う。しかし、やっぱり、黒島が終盤になって、結局普通の女の子みたいにしおらしくなるのには少々失望した。そして、冒頭で勿体ぶって見せられたバッテンイメージと、何度も反復される物の臭いを嗅ぐ黒島の所作が、よくある感じの因果話に帰着してしまうのも。

＃備忘でその他の配役などを。

・被害者の子供で黒島結菜と文通していた少年は『ぼくのお日さま』の越山敬達。

・柳楽の同僚役−丸山礼、なかなかいい。２人の上司−立川志らくは違和感あり。

・黒島の子供時代シーンの母親−藤間爽子も好演。黒島の父親として現れるのは平岡祐太。

・控訴審の裁判長に市村正親。検事は福士誠治。拘置所の刑務官で今野浩喜。