[コメント] ロボット・ドリームズ(2023/スペイン=仏)
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映画ってだいたい「こんなんやりたいねん」から出発するものだと思う。そして、やりたいことをちゃんとやれるように話を組み立てる。今作はその組み立てに致命的に失敗している。またその失敗からは、作り手の考えかた、生きかたに根深く潜む問題さえも伺える。
今作の「こんなんやりたいねん」はオレの「こんなん観たいねん」とかなり一致していた。それだけに、脚本段階での組み立てに失敗しやがってと腹が立つのだ。
今作は性別不詳の動物世界を描いている。犬は寂しさを紛らわせるためにロボットを買う。多幸感あふれる2人の時間があって、いろいろあってロボはビーチで動けなくなる。ロボを助けようとするが、ビーチは閉鎖される。警官には捕まり、役所では拒否される。犬は諦め、仕方なく海開きの日を待つことにする。いや仕方なくないが? 仕方なくないが?
ロボは海水に浸かったから動けなくなったと思われる。それは後半の2台目に対する犬の態度から明らかだ。この犬、ロボを組み立てるときに少しマニュアルを読んだものの、ロボの基本仕様さえ判っておらず、なんの危機感もなくロボを海につれてきたわけだ。オイ、オイ、オイ! いるよなあ! 説明書読まねえやつ! そんですぐ「こわれた」とか「わからない」とか言ってくるやつ! オレはこういうやつが大嫌いなので、なるべく助けないことにしている。
犬は警官や役所からダメと言われたらハイそうですかとすぐに引き下がる。なぜ情熱を傾けて事情を説明しないのか。なぜ説得しないのか。なぜ連中を味方につけてロボ救出を手伝わせようとしないのか。オレには判らない。手を尽くしたようには、まったく見えない。説明書を読まないようなバカだから、権威に服従する家畜に成り下がってしまうんだよ。こいつ絶対選挙の投票とか行ってない。生きるということを、他人任せにしてサボって生きてきたんだよ。バスでスナック菓子を撒き散らす場面でも判るように、こいつ甘ったれだよ。明白に甘ったれとして描いている。意図は知らない。
判るのは、犬がロボを「捨てた」ということだ。だってそうやろがい、海水で壊れたロボを砂浜に放置ってもう捨てたも同然だ。ここでこの犬というキャラクターのことをよくよく考えると、どうやって生計立ててるか知らんが金に困った様子もなくアパートでひとり暮らししてて、安くはなかろうロボットをテレビショッピングで衝動買いできて、説明書を読む時間はあった筈だがいっさい読まずにロボを海水に浸け壊してしまう。行政にビーチを立ち入り禁止にされるとロボ救出をあっさり諦める。1年後に海開きしてロボが消えると、別のロボを買う。金あるな。オレは、こういうやつを好きになれない。ロボをペットの犬だと見立てた場合(金で買う、寂しくなくなる)、こういうバカ飼い主はいくらでもいるだろう。そもそも金で友達/恋人/家族/仲間を買う行為自体に引っかかるうえ、こいつにとって金とは何なのかも描かれない。働かずに毎日遊んでいるだけだからだ(羨ましい)。
ハッキリ言って別離の件さえちゃんとしていれば、結構いい映画なのだ。2人がやむをえず、心ならずも離れ離れになってしまう展開はどうにでも作れた筈だ。思いつかないなら、人混みではぐれるだけでもいい。ニューヨークならナンボでもはぐれるやろ。原作のグラフィックノベルがどうなってるかは知らない。
ニューヨークの美しい四季、孤独を癒やす友情或いは愛情、かけがえのない思い出。オレを魅了した予告編はこのような素敵な味わいでできていたのだが、本編を観てみるとこの世界は完全にディストピアだ。出てくるのは服従する家畜ばかりの奴隷社会だ。何がなんだか判らないものに従って生きてる連中ばかりだ。警官も役人も、スカベンジャーやジャンク屋だって、ルーチンを繰り返しているだけで別に悪気はなさそうだ。動物というよりも、昆虫の社会に近い。この映画は性を隠蔽している。組み合わせはどうにでも考えてくださいということかもしれぬ。しかしこの映画はもうひとつ隠蔽していることがあって、それは怒りだ。怒りを去勢された奴隷の世界なんだよ。犬もロボも、理不尽を受け入れて諦めることしかしない。それは誠実でも優しさでもない。怒れよ! 怒って世界に挑めよ、世界を変えろよ。このタマなし野郎!(こういうこと言うマッチョがいやだから性別不詳なんだろうな) あー、でもアリクイ兄弟は好きでしたね。
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