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[コメント] ドールハウス(2025/日)

電信柱が右側に入った空。ゆっくり前進移動する仰角ショット。続いて住宅街。画面奥に長澤まさみを含めた女性たちと子供たちがいる。この住宅街の簡潔な見せ方がいい。序盤のゆったりとしたカメラの動きはいいと思う。
ゑぎ

 また、ドラム式洗濯機の蓋(とその中)の見せ方も怖くていい。洗濯機は全編で機能するアイテムになる。あるいは、蓋もそうだ。終盤には棺桶(甕棺)の蓋もいい働きをするし、他にも、人形を入れる箱の蓋があり、子供たちが頭に被る紙袋なんかも蓋と云っていいかも知れない。

 本作の前半は、長澤の圧倒的な女優映画だ。これが中盤、長澤が入院することになり(ちょっとこの展開の納得性は低い、というか長澤が入院を納得する描写は甘い)、しばらく彼女は消えてしまい、夫の瀬戸康史が中心のプロットになる。かと思っていたら、安田顕今野浩喜田中哲司といった脇役が現れて、プロットの転回に加速度がつく。特に、田中がプロットを引っ張り、瀬戸も長澤も田中について行くだけの存在になる、という「あれよあれよ」の感覚は面白いと思った。しかし、最終盤は、やっぱり長澤が主人公に戻って収束する。

 あと、心霊系ユーチューバーの動画がいきなり挿入されるという転調が好き。いやこのこの動画の中の、こすり倒された効果音(パフパフらっぱ等)が可笑しいのだが、実は、これ以外にも、中盤以降けっこうクスリとさせられる部分がある。例えば、お焚き上げ寺院からの使者−今野浩喜の見るからに怪しいキャラ造型。あるいは、刑事−安田顕の放ったらかしになる扱い。そして、新潟県の神無島へ乗り込む前夜の、古地図を使った埋葬場所特定とお祓いの場面が、全編でも最も恐怖演出の(画面造型という意味での)見せ場だと思うのだが、その中での呪禁師−田中哲司に関するオチの演出も(科白も含めて)。

 もっとも、全編に亘って、謎というか穴というかノイズというか未整理な状態のまゝ提示されたという感覚は多くあり(あの描写は何だったのか?という事柄は多数ある)、このプロット構成の理屈の曖昧さを嫌悪する観客もいるだろうと思う。それは、最終盤(エピローグ)のグダグダと云ってもいい複雑怪奇な因果の様相と、幻想も含めた見せ方の部分で顕著だろう。しかし、映画に蓋然性(理屈の正確さ)を強く求めない私のような観客に云わせれば、本作の純粋に画面の積算で心を揺すぶる演出は確かなものだと感じる。

 最後に付け足しのように書くのもなんだが、何と云っても人形の造型が肝腎な作品として、本作の極力エフェクトをかけない(例えば終盤まで顔を変化させない)人形の扱いは良いと思った。長澤が手に入れた直後、最初に人形の顔に寄っていくショットなんかも、ゾクゾクする良いショットだ。

(評価:★3)

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