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[コメント] 昭和残侠伝 死んで貰います(1970/日)

数ある東映任侠映画の中でも、その濃密な映画的空間の造型において突出した美しさを誇る傑作。
ゑぎ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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 物語をなぞるだけの見方であれば、料理人・高倉健と芸者・藤純子の現実離れしたメロドラマ。例えば、二人が恋に落ちる動機についてはその出会いにおいても再会においても、唖然とするほど描かれない。しかし、藤純子の所作や表情によって、或いは高倉健の不器用なリアクションによってフィルムに定着した恋する感情の濃密度が、「このご都合主義こそ映画なのだ」と納得させ、全てを受容させてしまう。アヴァン・タイトルとラスト近くで出てくる銀杏の下の二人のシーンは、『明治侠客伝 三代目襲名』の、堂島川べりで藤純子が鶴田浩二に二つの桃を手渡すシーンと並ぶ忘れがたい名シーンだろう。

 また、二人の周辺の人達の暖かな眼差しが醸成する幸福感はもう他の誰のものでもないマキノの刻印だ。このジャンルが宿命として持つ悲劇的終焉の印象を消し払うほど、多くの登場人物達の笑顔が忘れられない。特に、調理場で下拵えをする池部良と高倉健(健さんが大根の桂剥きをしている!)に長門裕之と藤純子が加わって二人で他愛もない会話をするシーンの幸福感!二台のカメラで撮影され繋がれたカットが紡ぎ出す軽やかなリズム感!黒澤明なんかにはとても真似できないマキノ特有のマルチ撮影だ。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (10 人)irodori[*] ねこすけ[*] けにろん[*] sawa:38[*] 町田[*] ハム[*] movableinferno[*] tat ぽんしゅう[*] minoru[*]

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