[コメント] 海燕ジョーの奇跡(1984/日)
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時任三郎はフィリピンのハーフ、藤谷美和子は与那国の出身という設定。本筋の在沖縄と終盤のヤクザ話はひどく退屈でいけない。神波史男は『博徒外人部隊』(71)、『沖縄やくざ戦争』(76)に本作と、詰まらない沖縄やくざ映画を連発している(極真空手の名誉師範らしいから沖縄に造形は深いのだろう)。映画のアクションは深作の足元にも及ばないのんびりムード。指名手配犯の実家を見張らず、藤谷や内藤武敏を追跡してフィリピンに出張しない警察はとても間抜けに見える。
しかし、ヤクザ話以外の件は面白い。密行話になって俄かに盛り上がる(井筒にも韓国へ密航する話があった)。本作のルートは沖縄本島から宮古島経由で与那国島。『連合艦隊』などをシンボリックに引きずる男三船敏郎の船頭が、厭な予感のした説教など何も語らず値上げ交渉しただけで退場するのが芳しい。与那国島で藤谷の母親の原泉さんは海見て曰く「昔は台湾の舟も平気で入ってきた。国境など本来あってはならん」で台湾の舟に乗り、船長は昔の日本兵、台湾の見える海の真ん中で闇舟に乗り替える。褌した連中の漕ぐカヌー。へんな斑の豚がお出迎えのフィリピンの砂浜。
フィリピン風俗も愉しい。原色の安ホテルとか、天井ノックすると停まる軽バスとか。原田芳雄の手下になって盗品捌いたりフィリピーナ派遣したり、何のことはないヤクザ話しの続きではある。夜中に拳銃の音がして、昨夜はマルコスのデモがあったと案内役のリサ(Floriza Laboroこの娘が別嬪)が噂する。リサはヌードショーで津軽海峡冬景色を唄っているから客は仕方のない日本人なのだろう。時任と藤谷は軍の行進と逮捕に出くわし、オーラスは軍のバリケード破って戦車に転覆して全滅する。やはりスケール感がなくていかにもちゃちいのだが、時代を記録しようという意欲は感じられる。
任侠映画の池辺良のようにどうでもいい役で登場する清水健太郎は「ミンダナオのゲリラ(モロ・イスラム解放戦線)に入ってしまえば警察も出だしできない」と案内している。どうせならそこまで話を広げてほしかったものだ。
本作はいったい何年を描いているのか。新聞は一面に施設庁の談合を伝え、ギャラップ社のアンケートでアメリカの現状に満足な者が80年に50%と、79年の29%を大きく上回ったとラジオが放送している。原作通りなら79年のはずだがズレている。フィリピンは81年まで戒厳令だったらしく、軍隊は戒厳令のものか違うのかよく判らない。
時任が没落した父を探すという設定で、「東洋一のスラム」マニラのトンド地区にキャメラを入れている。政変時代だから最低の状況だったのだろう。煙吹くゴミの山とか川渡しの関所とか湿気た裏路地とか迫力があるが、全体にはやたら子供の大量にいる活気ある長屋みたいな撮り方。父は片手で散髪屋をしているのだった。ここが印象に残る。
鈴木瑞穂と内藤武敏がやくざ役というのに時の流れを感じる。ダサいタイトルとバブリーな英語の主題歌はどうにかならなかったのだろうか。三船プロ・松竹富士提携作品。
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