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[コメント] 猫と庄造と二人のをんな(1956/日)

豊田は本邦ポルノ映画の開祖か。猫の肉感しか信じない森繁久彌と金満娘香川京子の大股開き。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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大股開きには余りのことに眩暈がした。もちろん水着姿だけど。

豊田は『』において凸ちゃんに胸の谷間をさらけ出させた鬼畜でもあった(「もうちょっと出して、お願い」と粘り倒したという逸話がある)。50年代にポルノ映画を準備した偉人という感想がいや増す。

本作はオーシマの階級闘争コメディから闘争を省いたような作品だ。ブラック過ぎて笑えない処も避難先としての性への執着も酷似している。屋敷を所有する香川の狼藉にやられまくる浪花千栄子の卑屈には階級差の視点が明快にある。

これは教科書をざっくりなぞり書きすれば60年代オーシマらの闘争敗北を経て70年代のATG的自閉と日活ロマンポルノ的潜行へ至ることになるのだが、本作は60年代をスキップした具合で、余りにも鬱で出鱈目な森繁はすでに空白の70年代に到達している。ラスト、豪雨のなか海岸にステテコ姿で猫を抱いて画面から立ち去る森繁のショットの箆棒な求心力は、ロマンポルノの傑作の感性に近似している。『(秘)色情めす市場』で女を金で取られてダッチワイフとともに果てる萩原朔美が強烈に想起される。

もちろん、通底する谷崎の文脈があってのことだろうけど、飼い猫主体の原作をこのように編集した本作の視点は際立っている。八住利雄の貢献大。セルフ・イメージを転覆させた香川の役者魂からも、ポルノ女優たちの雄姿が透けて見える。

本作は画がとても充実している。白い蚊帳を吊るした寝床のショットの反復や、森繁が忍び込む山田五十鈴の逗留先の裏庭の件など、スタンダード・サイズとして完璧な構図があるが、この邦画全盛期の完成形から抜け出ている箇所が見え隠れしている。下手糞な殴り書きにモダンな音楽が絡むタイトルバックからしてもの凄い。猫は何度も投げられるナイスなアクションで、今なら全部NGだろう(ついには二階から放り出されるが、スタッフは上手く受け止められたのだろうかとても気になる)、余りのブラックさに笑うに笑えない。須磨らしき海水浴場の沖合に軍艦がでえんと停泊しているショットは何だったのか。邪魔なら外せばいい訳で、これもオーシマのようにドキュメンタリー的に取り込んだように見えてくる。

五十鈴のコメディは相変わらず面白いが、出番が期待より少ないのは森繁・香川を中心にしたためだろう。最底辺にいる彼女の無茶苦茶な再就職活動は笑うに笑えない。そして、浪花もそうだが、いつもより力んでいるように見える。これもまたオーシマっぽい。テーゼ映画らしいゴツゴツした力みと云うべきだ。脇で素晴らしいのが仲人の芦乃家雁玉。エンタツ・アチャコと人気を競った人らしく、映画で拝めるのは本作ぐらいなので貴重。アクの強さと軽妙さが絶妙で、本作を見事なナニワ映画にしている。鑑賞したフィルムは随分損傷が目立った。万全の補修を望みたい傑作。

(評価:★5)

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