空港で会ったホセは開口一番「なぜ歯を抜いた？」と言う。コールはボロホテルで歯を抜いた。もう出血も収まっていたし、口に血がついていたとしても、それだけで歯を抜いたと分かるはずがない。でもホセは言った。「なぜ歯を抜いた？」つまりホセはコールが歯を抜いた事をすでに知っていた事になる。ホセはどこで知り得たのか。未来しかない。科学者達がそれまでの過去の手掛かりをコールに示した様にホセに示したのだ。“コールが発信機を外した”と。

　コールは空港から電話した。“犯人は１２モンキーズではない”それを受信した未来の科学者達は１２モンキーズ以外に原因を捜索した。コールの電話を受信したのが空港。あの日の空港では発砲未遂事件があった。当然、報道されただろう。その記録が残っていれば、未来の科学者が見のがすはずはない。報道でのライリーの証言からか、当時の乗客リストからか、とにかくジェフリーの父の助手が犯人だという事を確信する。

　さて、空港に現れたホセの役目は何だったのか。それは“コールに銃を渡す事”だ。ここに謎をとく鍵がある。なぜ、コールに撃たせるのかという事。ホセが撃ってもいいし、エスカレーターですれ違った未来の看守が撃ってもいいはずだ。それをあえてコールに撃たせたのはなぜか。ここで考えてほしい。コールやライリー、そして多くの見る側も物語が進む内、目的を見失っている事を。その目的は“惨事そのものを阻止する事”だっただろうか？

　彼等のタイムワープ技術は行きはものものしい機械で送り込むが帰りは意志とは関係なく突然消えるだけだ。また、行き先（過去）は指定できるが、帰りは送り込んだ時空しか無理らしい。ここから、あのタイムワープが時限式だと考えられる。つまり惨事を食い止めても、ものものしいタイムワープ機械が帰るべき未来になければ戻る事はできない。惨事を食い止めても未来人はその先の未来では暮らせないのだ。（それどころか存在すらできない）真の目的は惨事阻止ではなく精神病院でコール自身が話した事、そう、ウィルスのルーツを探る事なのである。

　未来の科学者と看守とホセが1996年にやってきたのは、惨事を食い止めるためでも、コールを連れ戻すためでもなく、ウィルスの原体を採取し未来に持ち帰るためだったのだ。ホセの役目は未来への手掛かりとなる発砲未遂事件を起こさせる為にコールに銃を渡す事だったと考えられる。看守はホセとコールの見張り、科学者は原体の取り扱いがデリケートで囚人にはできないと判断したからと考えられる。

　すでにウィルスのいる世界に囚人でない科学者や看守が危険を冒して来たのはなぜだろう。自己犠牲の精神？　いや、おそらくそうではない。危険を冒したのではなくすでに危険はなかったとしたらどうだろう。コールは未来の世界で地上からゴキブリや蜘蛛をサンプルとして採取していた。これはつまり未来の世界ですでにワクチンの研究がなされている事を意味する。そして、ここからは想像だがワクチンはほぼ完成していたのではないだろうか。1996年に子供だったコールが未来では大人。そこから考えても少なくとも未来は30〜40年後という事になる。それだけの期間、研究していたのだから考えられなくもない。ただ一つ、完成の条件としてウィルスの原体が必要だったと考えればコールの任務も説明がつく。未来ではワクチン完成の準備がすでに整っておりあとは原体が来るのを待つばかりになっている。帰った科学者と看守は原体を渡しワクチンが完成するのを待つだけだ。ウィルスの潜伏期間は1週間〜2週間。それだけあれば確実にワクチンは完成、危険はないのである。

　コールは２度目のタイムワープの途中で1917年の戦場に飛ばされ、そこでホセに会う。ホセはいつタイムスリップしたのか。1917年の戦場でホセは右頬にV字型の傷を負っている。ラストシーンでふたたび登場した彼の右頬にはV字型の傷跡。ところが冒頭のシーン金網の向こうからコールに声をかけるホセの右頬にもV字型の傷跡がある。これはコールが始めてのタイムワープをする以前にホセがタイムワープを経験していた事を表す。つまりホセはコールより先に任務についていたのだ。ホセがどこからどこまで、そしていつから、知っていたのか分からないが少なくともコールより事情が分かっていたと想像がつく。もしかしたら、ホセと科学者達はグルを組んでいたのかもしれない。あるいは科学者もホセも最初から全てわかっていて、予定調和のためにコールを悲劇の結末へと導いていただけだとも考えられる。

　……以上の様な事を考えつつ、見直してみると冒頭の科学者やホセのセリフの不自然さ、コールをボブと呼ぶ男の声、未来の看守の顔に見える精神病院の看守の顔、ラストの科学者のセリフなど、さまざまな疑問がつながってる様に感じる。