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[コメント] 火垂るの墓(1988/日)

背景にあるのは戦争であって、この兄弟は間違いなく戦争の犠牲者だ。 そして、日本とて、加害者であり、戦争の犠牲者は、世界的規模で今もなお増えつづけているということを忘れないでいよう。
kazby

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







憲法前文が示すように、戦争を起こすのは政府であり、その政府が守るのは、国益に直結するほんの一握りの巨大資本だけである。 戦場へ送られる兵隊も、銃後を守る女子供もその道具に過ぎない。 一番の悪者は誰かということをちゃんと言わないから、映画の中で、なぜか悪者になっているのでは、清太も、そして節子も、叔母さんもうかばれまい。兄妹のきょとんとした顔が思い浮かぶ。 人々を戦争に駆り立てていく準備として、小学校の教科書は昭和初期に、「はと、まめ」から「さいた、さいた、さくらが、さいた」「すすめ、すすめ、へいたい、すすめ」にがらりと切り替わる。 戦争がある、軍隊がある、軍人になる、兵隊になる、竹やり、隣組...。 優れた道具になるために、これらのことに何の疑問ももたないよう、教育すること、反対の声を握りつぶす手段を合法化することが政府の大仕事だった。 良妻賢母の徳を強調し、婦人も社会に参加を!とあおる。 たとえ天皇のためには死ねなくとも、愛する妻が、母親が、恋人が、万歳による壮行を強制される中、せめて彼女らの恥になることだけはすまいと、自分を奮い立たせて出陣していくしかなかった男達。 情報は完全に操作され、敵国の言葉は禁止され、敵愾心をあおる嘘が流布される。 貧しい庶民から、刀剣など金属のすべて、しまいには鍋や釜まで取り上げて、戦争を続けようとした。 そして、自国を焦土にして、負けた。 農業を離れ、工業化が国是とされ、必死に働きながら、安保に反対し、福祉の向上、労働者の権利を求め、闘った父母達の時代。 総評解体以来、急激に求心力をなくしていった社会運動。強行採決により生まれる数々の悪法。増大しつづける軍事費。 地道な政策なく、腐敗する政治に関心薄れ、投票率が50パーセントをわる先進国。長引く不況と人々の不安。 60年近くを経て、戦前とそっくり同じものが、同じ場所に出来上がった。そう考える人がいても、不思議じゃないでしょう。 何か書きたいと思って、何回か試みたが、いつも心に渦巻くのはだいたいこのようなことだ。

(評価:★4)

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