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[コメント] 網走番外地(1965/日)

酷寒の大地で鎖につながれた男たちが夢見るものは、自由、そしてあの人の温もり・・・。俳優・高倉健のスターたるゆえんが分る気になるアウトロー物?の大傑作。
G31

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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ゆえんnothing but a hound dog,そらともかく。

自分の意思に反し巻き込まれた状況に、瞬発的に反応しながらも、柔軟に自分を貫き、逡巡しつつ前へ進むヤクザな反骨漢・橘真一(高倉健)。あまたいる囚人たちの中で、ことさら彼に寄り添うこの映画の視線は、内心の独白を拾うばかりか、少年時代の陳腐な回想シーンまで盛り込む。これが単に、スター・高倉健の演じる類型的な役柄に陰影を施す為のものとしてだけでなく、終始彼に絡み、行動を共にする忘れられかけた無頼・権田(南原宏治)の為のものでもあったと気づかされたとき、この映画に対し完全に白旗を揚げていた。

迫りくる機関車の緊迫感とその後に続く解放感、型通りとはいえ手馴れた演出はさすがに秀逸で、やがて自由の獲得という認識に至ったときに橘が叫んだ言葉は「おっかさん」。雪原に響くこのセリフには、ヤケに感情を揺さぶるものがあって、私はほとんどこれがラストシーンだと思った。が、実はその遥か横に、一緒に逃避行を続けた権田が、なぜか絶命寸前になって横たわっていて、やっぱり「おっかさん」とつぶやく。煮ても食えない小ずるい小悪党ぶりを南原が見事に演じていただけに、これには本当にまいった。健さんならずとも、こ奴を放置しておくわけにはいかないじゃないか。映画の後半に限っていえば、南原に助演男優賞を差し上げたいくらいだ。直情的な行動だけでなく、語った言葉、否、語らなかった言葉までもが誤解を生み信頼を失うこの世の中で、人に想いを伝えるという行為は、なんと困難なことなのだろう。

丹波哲郎の演じた保護司・妻木も、硬骨な正義漢ゆえの他者を断罪する傲慢さをきっちり表現し得ていて、凄かった。ラストあっさり和解しちゃうのは、リアリズムの観点からすれば問題アリだろうが、映画なんだからいいじゃん!てことで、よろしくお願いします。

いつも同じような役どころの多い健さんは、日本映画を代表する大スターであることは間違いないけれど、その分、代表作と言える作品に乏しいように思う。が、この作品は俳優・高倉健の真価を遺憾なく発揮した代表作と呼べるのではなかろうか。

85/100(02/09/06記)

(評価:★4)

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