[コメント] 武士道残酷物語(1963/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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冒頭、この映画が現代から始まるところがこの映画のポイントでしょう。
1963年というと私が生まれて1歳の年。ヒット曲には三波春夫さんの「東京五輪音頭」などがあって、翌年の『東京オリンピック』に向けて、経済成長が著しい頃ですね。
そんな社会の中で、ようするにイケイケの時代にサラリーマンとしてゼネコンに勤務している主人公が、婚約者の自殺未遂をきっかけに、みずからの系譜(先祖代々)を遡り、主君にひたすら仕えてきた歴史と今の自分を重ねるという物語。
まずは中村錦之助さんの好演が輝いています。私の知る中村錦之助さんというと『子連れ狼』とか『鬼平犯科帳』などテレビの印象が強いですね。舌足らずなセリフまわしが印象的ですが、落ち着いた雰囲気でしたよね。
映画の錦之助さんは、さすがにあまり見ていませんが、現代劇を演じる彼の姿は初めてお目にかかったような気がします。そして現代劇のわずかなシーンの薄い印象とは裏腹に、時代劇部分の演技はさすがです。全体的に落ちぶれた武士の姿を印象的に演じていますが、小姓など若々しい演技も見事で、殿様に手ごめにされるシーンはさすが歌舞伎で培った女形の演技に近くて見事だなぁと感心しました。
今井正監督は、この現代と過去の歴史をシンクロさせて、現代社会の組織人としての在り方を最後に示そうとします。今も昔も変わらないモチーフですね。今井正監督作品はそれほど見ていませんが、また逢う日までのガラス越しのキスシーンなど、当時としては思い切った演出をされる監督だったようです。キネマ旬報ベストテンの常連で何度か1位を獲得しています。
それにしても本作は実に巧妙に描かれている作品で、武士(今でいうサラリーマン)の宿命を物語るものですが、その時代時代の政権というか政治と申しますか、社会的な環境で仕える立場も大きく異なるんだということが良く理解できます。
主君の人柄や政策などによって立場が大きく変わる。今だって社長や上司が変われば自分の立ち位置も変化しますが、江戸から明治にかけて、そして戦時中の日本の徒弟制度はいかにも理不尽で、弱い者の立場をとことん貶めるものとして描かれます。
はたしてこれが事実であったかどうかは別にして、血を綿々と継いでゆく中で、先祖が類似した運命をたどるというのはいかにも日本的です。政治家にしても何にしても、格差がますます広がる今の社会を見てみれば、やはり貧しい生まれの者は所詮仕える身分に変わりがないということを示していますね。悲しい現実です。
2010/01/10(自宅)
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