[コメント] ファーゴ(1996/米)
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劇場鑑賞した公開時以来、四半世紀ぶりに鑑賞(<最近そんなのばっかりだな)。コーエン兄弟は大好きなんですが、あんまり観直す機会がない。
日本公開時、この映画には「人間はおかしくて、哀しい」というキャッチコピーが付いていたと記憶しています。 これ、ある意味正解だし、ある意味間違いの元だったと思うのです。
正解だと思う理由は、その後ずっと(それ以前も)、このインテリ兄弟は「人間はおかしくて、哀しい」というテーマを描き続けているように思えるからです。 まあ確かに、世のドラマのほとんどはおかしくて哀しい人間模様を描いているんですけどね。ただ、コーエン兄弟は特に悲喜劇を誇張していると思うんですよ。誇張しすぎた悲喜劇。ザコシか。
逆に間違いだと思う理由は、変に「感動ドラマ」として受け止められかねない点です。 実際公開時には、映画館では観客から笑いが起きるのですが、「笑うなんて不謹慎だ」という書き込みがネット上で散見されましたからね。ええーっ!って話ですよ。ウッドチッパー足ビヨ〜ンとか笑うでしょーが。これ、ブラックコメディーですからね。 まあ、コーエン兄弟も悪いんですよ。
「これは実話である」「死者への敬意を込めて(人名以外は)忠実に映画化している」←大嘘ですからね。
ほんと、このインテリ兄弟は人が悪い。 そういった意味では、好き嫌いの多い(観る人を選ぶ)映画です。
コーエン兄弟が描くのは、ある種の「バカ話」だと思うんです。 でも、「バカだなあ。ワッハッハ」で済ませられない何かがある。その理由は「バカ話」が好きな「インテリ」だから。 シモネタに例えるなら、 「ウンコ!ウンコ!ギャハハハ!」という子供っぽいレベルではなく、 「あそこに落ちているのはウンコかもしれない。匂いを嗅いでみた。ウンコのようだ。舐めてみた。やっぱりウンコだった。踏まなくてよかった」という笑いなのです。 なに?例えが分かりにくいって?
上記のクソなネタは『レディ・キラーズ』の感想でも書いているのですが、実はその映画で気付いたのです(『ファーゴ』を最初に観た際は気付かなかった)。
それは「土着性」。
コーエン兄弟は(おそらくほぼ常に)舞台となる場所を明示します。 『ファーゴ』はカナダとの境のミネソタ州(『シリアスマン』も同州ミネアポリス郊外)。『レディ・キラーズ』や『オー・ブラザー!』は一転して南部ミシシッピ州。『ノーカントリー』はメキシコ国境沿いのテキサス州。もちろんニューヨークやロスを舞台にする作品もありますが、こんなに合衆国の田舎を舞台にする人も珍しい。 そこにはおそらく、我々日本人には皮膚感覚で理解できない、その土地ならではの「土着性」が描かれているのでしょう。
勝手な推測ですが、「おかしくて哀しい」人間性の一つとして「土地に縛られている」という要因があるのではないでしょうか。 さらに、人に降りかかる(誇張された)悲喜劇を「人間の不条理」と「社会の不条理」から描いているようにも思えます。
この人の悪いインテリ兄弟は、客観的な視点でシニカルに(<だから観る人を選ぶ)、「おかしくて、哀しい人間模様」を描く作家なのだと思います。
(2021.08.08 CSにて再鑑賞)
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