[コメント] 裸の大将(1958/日)
終盤の自衛隊に関する言及にしても、完全に戦争批判を描いているという点は予想していなかった。本作は、はっきり反戦についての映画だ。また一方、東宝の豪華脇役陣総出演といった感じで、沢山の俳優が順番に登場する楽しい映画でもあり、演出や画面造型よりも、俳優と、多分事実に基づく挿話の面白さで見せる映画だと思う。特に俳優陣で目を引いた場面は、山下清−小林桂樹が最初に住み込みで働く田舎町(阿武田)の弁当屋の場面。主人は有島一郎と一の宮あつ子の夫婦だが、こゝの従業員は本当に豪華な脇役陣なのだ。特に、佐田豊、井上大助、堺左千夫や大塚国夫にまじって、青山京子、横山道代、中田康子の三女優が働いている、というのは、いくらなんでもファンタジーだろうと思いながら見た。メッチャ華やか。もっとも、三好栄子の婆さんも加わっているが。
また、この弁当屋のシーケンスでは、大塚国夫の駅での出征シーンの後に、山下−小林が、怖い夢を見る部分がある。この夢の中で、米兵の突撃ショットがあるのだが、米兵たちは第一騎兵師団のワッペン(肩章)を付けているのだ。これは、ちょっと面白いと思った。この肩章は戦後の進駐軍の象徴的なイメージだが、戦時中の山下が、このようなディティールの夢を見るはずもないからだ。
あと、結局、徴兵検査で不合格になった山下が、妹にもらった赤い傘をさして全国行脚をする場面がいい。こゝは、地名入りのショットが、ほとんどワンカットずつ繋がれる。特に、白糸の滝から瀬戸内海、と飛んだのには吃驚。その後、宮島、鳥取砂丘、桜島、阿蘇など。
もう一つ、画面造型で気に入った場面が、精神病院の風呂場から逃亡した後、裸の山下が、町の人たちと一緒に玉音放送を聞く場面だ。このシーンで描かれる町の風情が、まるでゴーストタウンのような美術装置。このシュールな造型もまた、反戦意識の表象なのだろうと思う。
もっとも、一番面白いなあと思ったのは、敗戦後、山下の母親−三益愛子ら家族が住みついたのは、もともと共同便所だった小屋で、三益が「焼けたから消毒された」と云う場面だ。
さて、本作の中で、とても奇異な俳優の使い回しがある。上に記載した弁当屋の場面で出て来た青山が、別の場面、加東大介の飯屋(割烹?)の従業員としても顔を見せたと思うし(私の見間違い?)、横山は、精神病院の看護婦の中にもいたのだ(これは流石に見間違いではないと思う)。もっと端役のエキストラに近い俳優ならこんなことザラかもしれないが、準主役級の女優2人を、顔が見えるカタチで使い回すなんて、どういう了見だろうか。やっぱり、引っ掛かりを残したかったのだろうか。
そして、エンディング近く、自衛隊歓迎パレードの後の、山下が新聞記者に追いかけられるシーンでは、クレイジー・キャッツのメンバが出て来るのだが、私は、ハナ肇、植木等、犬塚弘は視認できたが、あとのメンバーについては、動体視力が追い付かず見分けられなかった。確かにダイナミックなエンディングではあるが、もうちょっとゆっくり見せるショットを入れても良かったのではないだろうか。
#備忘でその他の配役等を記述します。
・アバンタイルで山下を追いかける警官は、市村俊幸。クレジット開け、最初に芋をくれる農家のオバサンは本間文子だ。高堂国典の家で饅頭をもらうが、教育勅語を暗唱させられる。一緒にいるのは森川信や石井伊吉(毒蝮三太夫)。
・親切な汲み取り屋のオバサン、沢村貞子。側に出雲八恵子。沢村はバスに乗せ、弁当屋への紹介状を持たせてくれる。バスの車掌は団令子。
・弁当屋と間違えて連れて行かれる食堂のオヤジで中村是好。弁当屋の主人、有島は潜水艦、一の宮はニワトリ、という仇名。弁当屋に居住者確認で来る巡査は柳谷寛。
・加東の飯屋には、軍司令官の東野英治郎が来る。偉そうな上等兵は南道郎。徴兵検査の不合格を告げる将校は上田吉二郎。
・家の近所の?お爺さんは坂本武、お婆さんが飯田蝶子のコンビ。
・左卜全のルンペンたちと駅で踊っていて裸になり、逮捕される。
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