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[コメント] 未来世紀ブラジル(1985/英=米)

情報を扱った先駆的「レトロ未来感」映画。
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







私はテリー・ギリアム好きなんですが、ウチのヨメからは 「最初に特大場外ホームランを見ちゃったからファンになったけど、実は打率が低いんじゃないか」疑惑をかけられています。 その特大場外ホームランがこの映画。午前十時の映画祭のおかげで約30年ぶりの再鑑賞。 まあ、「世界一コスパの悪い監督」だとは思いますよ。

独特のビジュアルイメージは、言わば「昔考えられていた未来」。名付けて「レトロ未来感」。 これ、アニメやゲームは多いと思うんです。宮崎駿なんかもこれに近い。 ところが実写でやる人はあまりいない気がします。しかもCGのない時代。 どんだけダクトが重要な世の中なんだよ。 そういや、リドリー・スコット『エイリアン』も「この宇宙船は蒸気機関なのか?」ってほどシューシュー白煙吹いてましたけどね。 ちなみにダクト修理工役のデ・ニーロは配管工に弟子入りして役作りをしたそうですよ。今となっては「デ・ニーロならそれくらいやるよね」エピソードですが、当時は「そこまでしてこのチョイ役!?」という驚愕エピソードだったもんです。 話が横道に逸れましたが、ギリアムは「レトロ未来感」に「変な巨大セット好き」が加わって、本当にコスパが悪い。

改めて観たら、実に「イギリス映画」でした。

先日、『小さな恋のメロディ』でも書きましたが、イギリス映画は当たり前のように労働者階級が描かれるのです。ジョージ・オーウェル「1984年」の影響下にある映画ですが、これは「市民」じゃない。労働者階級。 それに爆弾テロね。イギリスと言えばIRAの爆弾テロ。あっちで爆発、こっちで爆発。調べたら、最高記録は1972年の年間1300件!

よく「赤か青のリード線、どちらかを切れば爆破停止で一方はトラップ!」みたいな爆弾サスペンスがあるじゃないですか。 イギリス映画『ジャガーノート』が源流だと思うんですが、これやっぱり、爆弾に慣れてる(?)イギリス的着想じゃないかな? 日本で爆弾を上手に扱った映画はあまり思い付かない。『新幹線大爆破』くらいですよ。ただ、『新幹線大爆破』は傑作。

そのテロリストですが、この『未来世紀ブラジル』は「誰が誰にとってのテロリストなのか?」という話だと私は解釈しています。 言い換えれば「誰かにとっての正義は、誰かにとっての脅威」。 管理社会に挑むヒーローという側面で語られますが、逆から見たらテロリストですよ。

ラストシーンは揉めたそうですが、おそらくギリアムの頭の中にはアメリカ的「勧善懲悪」思考はなかったでしょう。 実際、死傷する人々を見て心を痛めるサム・ライリーの姿が描写されます。他者の犠牲の上に成り立つハッピーエンドなんてあり得ない。 ギリアムは空想家で皮肉屋ですが、そういう良心がある。 むしろ、良心があるからバッド・エンドを選択するのです。

もう一つ別の側面から。

「情報」を扱った先駆的な映画だと思います。 でもまだ「情報=紙」でビジュアル表現可能だった時代でもあった。 今だったらデータでなくちゃいけないけど、「レトロ未来感」も手伝って「紙」で用が足りた。

たぶん、「情報」が注目され始めた時代だったのです。 日本でも、雑誌「ぴあ」が70年代に創刊し、映画・演劇の「情報」が商品となった。スポーツも、結果だけではなく過程や背景が読み物として「情報化」された。雑誌「Number」や「週刊プロレス」なんかも80年代創刊だと思います。余談ですが、「伝説の名勝負」とかが語り草になったのはこの「情報化」以降ではないかと私は睨んでいます。 それより何より、この映画の製作騒動の顛末が「バトル・オブ・ブラジル」という書籍として出版されている。映画制作の舞台裏が「情報」として商品化された草分けだと思います。

それくらい「情報」が注目され始めた時代だったわけです。 そしてこの映画で(ネタバレになりますが)デ・ニーロが紙まみれになって消失するシーンがあります。ただの幻想シーンにも思えますが、「紙=情報」であることを考えると「情報を剥いだら実態がなかった」という皮肉屋ギリアムの揶揄なのかもしれません。

(2021.10.17 TOHOシネマズ日本橋にて再鑑賞)

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)ペンクロフ[*]

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