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[コメント] 男はつらいよ 純情篇(1971/日)

滋味に富んだ森繁久彌を鑑賞する作品。若尾文子のプチ慰労会。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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寡黙な森繁がいい。本シリーズは派手な俳優を地味に使って成功を続けたが、本作の彼はその筆頭格。彼が黙っているだけでファンは不安になるのであり、絶妙のキャスティングだ。宮本信子の語る鬼亭主に寄り添えと告げる彼の説得に見応えがある。ここだけで本作は価値がある。いっそ本編にしたらいいのに。

この導入に比べて本編は詰まらない。博の独立騒動を出鱈目に仲介する寅は、タコ社長の嘆きへの感応が判るといえば判るが優柔不断に過ぎるし、発覚後の混乱を見てこれを下町のホンネの素晴らしさと賛美する若尾文子も無理矢理感がある。最後に寅はさくらに「帰ってきちゃ本物になれないんだ」と、森繁への告白を反復するのだが、それが本物の渡世人という意味なら、これを語義矛盾と見なしている本シリーズの共通理解と齟齬をきたしているし、寅は地方へ就職活動に出かける訳でもない。なんかよく判らない。

本作は大映倒産の年の公開作。タイトルで若尾の名前の横には(大映)とある。下町を賛美する彼女の発言は、大映より松竹がいいワ、と聞こえたりして、後の船越英二と同じく、ハードだった大映映画の経歴への慰労会の趣があるが、最後に彼女を迎えに来る眼鏡をかけた作家がマスムラに似ているため、これからまた大映に戻って毒婦ものを続けるのだなあ、と見えてしまう。撮影時、まだ倒産は決まっていなかったのだろう。

(評価:★3)

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