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[コメント] 男はつらいよ 夜霧にむせぶ寅次郎(1984/日)

これが最後の秋野太作と初登場の美保純、大好きな脇役の交錯なのに、常ならぬ保守的な物語に呑み込まれて愉しみ少ない。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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グレかける中原理恵を「まとも」にしようと努める寅の物語。それが面白いと仰る方もいらっしゃるだろうが、このシリーズにそんなことを期待していない私にはとても退屈だった。

寅は秋野太作を、お前はもう堅気なんだからと付き合いを断つ。この冒頭からして寅の自虐が甚だしい。美保純が結婚するのは中原の結婚と並べられ、みんな幸せでようござんしたとなる。この「まとも」になるという引力からはじき出されたのは『幸福の黄色いハンカチ』のパロディを好演した佐藤B作で、不幸な彼は後半使われようがなく、曖昧にいなくなってしまう。

寅屋での寅と中原の喧嘩がいい。愛情は理屈を超えるのだと、中原の啖呵はいつになく保守的な寅を叱り飛ばして気持ちがいい。当然渡瀬恒彦とふたりで逃亡して、寅を失望させなくてはならない。それでこそのドラマだろう。それなのに渡瀬とは何の描写もなく別れて、寅の云うとおり田舎で「幸せ」になる。これは何なのだ。どこかの保守団体から圧力でもかかったのではないかと心配するよ。

中原の背伸びしたグレッぷりに、リリーにはなり切れないものを寅は見ていた、という感想を惹起する点において、ヤサグレ感が微妙な中原の起用はそんなに悪いとは思わない。ただ、寅は若いマドンナには惚れないというルールがこの頃はもう浸透しているにもかかわらず、何で色恋がないのだという感想が出てくるのは、中原(このとき26歳)が年齢より上に見えるからで、この点はどうにもキャスティング・ミスだろう。寅が中原に全く恋愛感情を見せないのは、『口笛を吹く寅次郎』のスタンスを徹底させているようにも見えるが、本作には前作のような充実感は少ない。善人寅は抽象的で空回りしている。

渡瀬のバイクの曲芸(ウォール・オブ・デスというらしい)の撮影はカット割り多過ぎで迫力なく、『大人は判ってくれない』に惨敗。寅と渡瀬の渡世人の会話はとても格好良く、皮肉にもシリーズの魅力は本作の説教とベクトルが逆と証明してしまっている。最後のドタバタも、定型を破ろうという冒険は好ましいがまあ詰まらん。最後はやっぱり寅が秋野に再会してほしかったなあ。冷たいよ。

(評価:★3)

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