[コメント] 地の群れ(1970/日)
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『日本列島』『忍ぶ川』『下山事件』と、匿名集団の差別と暴力を映像化するにかけて熊井は第一級だが、本作の北林谷栄への投石はこれが極まった感がある。もうひとつ、ひどく印象的なのは米軍への橋の上に佇む鈴木瑞穂に寄ってくる私服の監視員の件。生臭さが何ともリアル。
熊井の傑作は未解決事件を取り上げるものが多く、その錯乱の過程は時とともにどうしようもなく過ぎ去ってしまうのだが、本作は違うスタンスで臨んでおり、いわば課題総覧の羅列型の構成を取っている。だからドラマとしてはとっ散らかった感が出てしまっており、例えば冒頭のシスターに路上で悪戯するキリスト教批評がとても興味深いのにそれ以上追及されないのは不満だが、そういう方法を取っている以上とやかく云うことはない。だからこれは、何よりもまず井上光晴の作品なのだろう。キリスト教、米軍、被爆差別、同和問題、在日朝鮮人。これらは日本が抱え込んだ矛盾点であり、問題になっていなかったのは好景気の時代の話かも知れないと思わずにいられない。私も、後から本も読んでみたい。
鈴木の造形は、もう井上光晴そのままなのだろう。殴られて路上で塗炭板背中にぶっ倒れる件などある種魅力的。夫人との言い争いなど私小説系ならではの具体性がある。収束の高層アパートの放浪は羽仁の『彼女と彼』(63)に似過ぎているが、あそこでは明らかに朝鮮人部落である場所が日本人のものとなっていて、踏み込みは本作が明快で優れている。このご婦人方こそ匿名の上位集団なのだ。
以下雑談。風来坊をしていると同和教育の地域差を感じる。私の出身の関西では、小学校から大学、はては職場(講演とか映画とか)まで充実したものだったが、東海地方ではそんなもの受けたことがないと云われる(年齢にもよるのだろうけど)。これは何なんだろう。関西は差別が根深かったからか。それともかつての革新自治体の成果なのだろうか。
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