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[コメント] 夢のチョコレート工場(1971/米)

黒くて甘くて苦い、チョコレートのようなお伽話。
Myurakz

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 物語開始早々「母1人子1人の家に寝たきり老人4人。しかもベッド1つ」という、誰に向かっているのかも判らない強烈な悪意にガッツリと引かされます。しかもジョーお爺ちゃん以外はそれほど孫に懐かれてもおらず、その不平等感に更に引く。しかし一方で、引きながらもどんどんその毒に取り込まれていく自分がいたりするんですよね。

 そんな小さいながらも強烈な毒が徐々に映画全体を侵食していき、遂にチョコレート工場の見学の場面に至って最前面に押し出されてくるわけです。Mr.ワンカは意味なく足を引き摺って登場し、宙を舞う主人公はゲップで降下し、行儀の悪い子供達は「何もそこまで」というくらいのヒドい目に遭わされる。最早これは「悪意のカタルシス」です。正直言います。かなり気持ちいいです。

 そしてその悪意の象徴的存在がウンパ・ルンパ族なんだと思います。お話的には「可哀想な彼らを引き取り、面倒を見てくれる子を探すのだ」なんてことになってますが、彼らが登場するのは必ず「悪い子がヒドい目に遭った時」。ハッキリ言ってそんなにメルヘンな描かれ方ではありません。むしろ「恐るべき謎の存在」って感じですよね。

 でもこの「不快」や「毒」や「悪意」こそが、この映画を観る子供達にとっての「強烈な印象」「強烈な恐怖」に繋がるわけで、お伽話の「教訓」という目的から考えると、これは非常に正しいアプローチなんだろうなと思うわけです。だからこそ毒気の抜けたラストシーンが「善行の報酬」としての意味を為すのでしょう。主人公が受け継ぐのが「お菓子工場」というのも、「貧乏脱出」と同時に「いつでもお菓子がたらふく食べられる」という子供の夢を叶えているわけで、その視点はあくまでも子供からは離れていかない。大人には悪意と快感を、そして子供には恐怖と教訓を。だからこそ「大人も楽しめるお伽話」となることができたんでしょうね。僕は大人として、その毒に眉をしかめながら「最高」と言わせていただきます。最高。

 それにしても悪い子供の一人、「何でも欲しがる女の子」の不快さは特筆モノ。あの歳であそこまで「イヤな子供」を演じきれるのはスゴいです。あの子に比べると他の子なんて可愛く見えたもんね。「裏の主役」と呼ばせていただきます。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)jean セネダ

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