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[コメント] 盗まれた欲情(1958/日)

今村監督の描写は本当に全て直球です。デビュー作からそれがよく分かります。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 今東光の「テント劇場」を、鈴木敏郎が脚色したもので、今村昌平の第一回作品となる。

 話自体は通俗なメロドラマで、こういうドロドロした作品は本来好きじゃないのだが、何故か今村昌平監督の描く場合、逆にそういった部分が妙にはまる。

 何でだろう?と考えてみたのだが、今思いついたのは、今村監督の描く男女関係には、見栄が無い。と言うことだからかもしれない。確かに色々な下心を持った人間は登場するし、女も男も性を武器のように使っていたりもする。しかし、それを変に隠すことなく、極めてストレートに出している。そこには駆け引きもなければ、立派なお題目もない。ただ、私はこうしたいからする。受ける方も、その思いを真っ向から受け止める。そこには見栄や装飾を全てとっぱらった男と女の関係がそこにはある。変におしゃれにしてしまうと、そのやりとりは虫ずが走り、同時に生々しすぎるとやっぱり引く。その辺のさじ加減を絶妙に捉えているのが今村監督なのではないだろうか?更にそれをコメディタッチにくるむことで軽快さと深刻さという両極端部分を上手く融合させている。やっぱり凄いと思う。

 そのバランス感覚が全編に渡って展開していくためにこそ、どんなに生々しくても、楽しく観ることが出来る。私は先に『豚と軍艦』(1961)の方を観ていたが、そのでのパワーは既にデビュー作から作られていたのだと思うと興味深い。

 私が知っている時代の長門裕之はすっかり脂が抜けきっていたと思うのだが、ここでのパワーは凄いなあ。同じ映画で真剣さとコミカルさと艶っぽさとを全て兼ね揃えていた希有な存在だったんだな。それを引き出した今村監督も改めて凄い。

(評価:★4)

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