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[コメント] ラストエンペラー(1987/英=中国=伊)

中国が舞台であるのに登場人物は英語を話す・・・・・・そのディスアドバンテージを克服するほどの壮大さ、美しさ、哀しさがこの映画には、ある。
Keita

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 壮大なスケールが見どころである映画だが、その壮大さを高めているのがヴィットリオ・ストラーロによる落ち着いたカメラワークに思えた。紫禁城での溥儀の即位式にて、幼い溥儀が歩く様子をゆっくりパンしながら追いかけ、歩き止るとそのまま頭を下げる大衆の群れが画面に飛び込んでくる。ワンカットでしっかり撮影されたことで、大衆がより多く感じ、紫禁城がより広く見えた。壮大さ、美しさ、カメラワーク、どれをとっても映像は実に見事だ。

 映像の美しさという点では、溥儀と妻、第二妻との絡みを描いた場面ではベルトルッチの官能的なセンスの良さが発揮されていた。倉庫に火事が起こるエピソードと交錯させて、大変美しい光の使い方をしていた。映画全体として、東洋的な美を追求しているが、官能の雰囲気を醸し出す美は東洋的でありつつも、やはりベルトルッチならではの雰囲気だった。

 物語は約50年にも及ぶひとりの男の人生を、歴史の流れも含めてしっかり描ききっている。英語で作られたことを問題点としてあげる人も少なくないが、壮大さや美しさ、そしてストーリーや人物描写の質が非常に高いこともあり、英語であることが特に気になることはなかった。たとえ英語で話していたとしても、中華民国が建国されたのちに象徴として権力は持たない皇帝として崇められ、傀儡国家・満州国の皇帝として日本人から利用され、戦後の共産党政権下では何の力も持たない溥儀の姿を眺め続けていると、悲哀がきちんと伝わってくるのだ。ラストシーン、紫禁城に見学に来てまで皇帝であることに固執し続けた溥儀の姿には今までに蓄積された悲しさが漂っていた。

 強烈な印象を残す史劇には狂気を感じるが、この映画にはそれがないのが少し残念であり、歴史の優等生的な感じがする映画でもあるが、中国を題材にひとりの悲しい男の物語を壮大さと美しさを持って構築したベルトルッチには、正直感心した。

(評価:★5)

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