[コメント] 奇跡の人(1962/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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アーサー・ペンの卓越した演出力、そしてパティ・デュークの演技の凄さは、ヘレンが「見えないもの」「聞こえないもの」を僕たちに見させ、聞かせる力を持っている、というところにある。つまり、彼女が見る暗闇の世界、聞く沈黙の世界を、僕たちが感じ取ることができてしまう、ということ。見えるものを見させるだけでも、聞こえるものを聞かせるだけでも凄いことなのに。
それから、あまりにも有名な話なので、皆さんもご存知のはずの「water」のシーン。あの、「水(そのもの、実体)」と「water(という言葉、記号)」がひとつになったときの閃光、それは、僕たちもきっと経験しているはずが、幼すぎて(赤ちゃんだしね)とうに忘れてしまったその閃光を蘇らせてくれるような感動。
これは余談になるかもしれないけれど、とある視覚障害児学級が、年に一度だけプールで遊ぶ姿を追ったドキュメンタリーを、ちょっと前に見たことがある。プールの噴水のまわりで、光と水の織りなすプリズムの中で、きゃっきゃっと声を上げ遊ぶ彼らの姿は本当に美しかった。人間にとって、水の感触というのは、他の何よりも特別で、不思議で、魅力的で、よい感覚刺激になるというナレーションがあった。考えてみれば古今東西、ほとんどの文化において、水はカタルシスの象徴であるのも頷けるところ。
白状すると、僕の専門は言語障害学。この映画を高校生の時に見たのがきっかけで、と書けば、格好良いのだが、現実そうではない。だが、その初見時からこの映画についてはずっと忘れられずにいる。
…でも、僕のアイドル、ベティ・デイヴィスからオスカー像を奪ったことは許さまじ。
(解説:同年、デイヴィスは『ジェーンに何が起こったか』でアカデミー主演女優賞候補になっていたが、本作のアン・バンクロフトにさらわれた。『ジェーン〜』で共演者で犬猿の仲であったジョーン・クロフォードの陰謀説もアリ)
〔★4.5〕
*追記:
「暗闇」と「沈黙」と名づけたが、それは便宜上の言葉であって、実際はそうでないことは言わずもがな。
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