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[コメント] ミッドナイトクロス(1981/米)

理系野郎と商売女の恋愛映画を作らせたら右に出る者はいない。
山ちゃん

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 これは理系野郎と商売女の恋愛悲劇である。理系野郎と商売女。恐らく本作のように主人公(理系野郎)が事件に巻き込まれたヒロイン(商売女)の命を救うといった劇的な展開が起きない限り巡り合うこともないだろうと思える二人。そして、これは偏見かもしれないが、事件に巻き込まれやすい商売女と事件に喰らいつく謎解き大好き理系野郎という、事件によって通じ合う二人。そして事件解決のパートナー以上の関係が発展しない二人。そして、彼女の美貌に惹かれていたのがいつしか、彼女がその事件の時何をしていたのかという事件の中の彼女に興味対象が変わっていく主人公。情欲よりも知的好奇心が抑えられない主人公。旅に出るといった彼女にもっと話がしたいと言って引き留めながら彼女の話に興味を示すふりすらみせず、それを彼女に見透される主人公。一方で自分の得意分野(=音響・通信)については一方的に熱く語りだす主人公。そんな主人公に、私は共感が持てる。

 しかしそんな主人公の理系根性のようなもの−この分野にだけは誰にも負けないといった過剰な自信−が悲劇をもたらす。彼は、一度失敗したはずだ。それなのに何故同じ過ちを繰り返すのだろう。しかも彼女をおとりにしてまで。これは、どうにも抑えきれない知的好奇心と絶対的な自信が生み出した悲劇である。そしてそれに気付いたときにはもう遅い。彼女は打ち上げ花火のように空に消えていく。その中で巡るめく己の得意分野で守れなかった悔しさ無念さ、そして行き過ぎた知的衝動の自責の念。彼に残されたのは彼女の悲鳴。トラウマと思い出が一体化された悲しい形見。そして、その悲鳴を映画の音響に残すやるせなさ。ここまで見せられると理系野郎と商売女は、決して出会ってはいけない関係なのかとさえ思えてくる。悲しい恋愛映画である。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)じゃくりーぬ[*] ぽんしゅう[*] モノリス砥石[*] けにろん[*]

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