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[コメント] キングコング対ゴジラ(1962/日)

「切手のキ、吉野のヨ、煙草のタに濁点が……」この意味が分かる人、挙手。
荒馬大介

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 ……分かる、という人は間違いなく本作を観た人だ。では観てない方の為に解説を。

 パシフィック製薬宣伝部長・多胡(有島一郎)は、自社提供のTV番組「世界脅威シリーズ」の聴取率不振に頭を悩ましていた。早い話が、つまらないのだ。しかしある日南方の野生薬草の研究に向かった牧岡博士(松村達男)から「巨大なる魔神」の噂を知る。そこで部長は噂の元となるファロ島という孤島に大取材班、といってもTV局カメラマン・桜井(高島忠男)と古江(藤木悠)の二人だけだが、とにかく派遣させた。

 ところが時を同じくして、北極の氷山融解を調査していた潜水艦シーホーク号が行方不明となり、それが復活したゴジラの仕業と分かって世の中はこの話題で持ちきり。おまけにライバル社のセントラル製薬が「シーホーク号海底探検シリーズ」を企画中、との情報を知っていた部長は怒り出す。“これじゃまるでセントラル製薬ブームじゃないか!!”としびれを切らした部長が部下の大林君(堺左千夫)に向けて言うのがこの台詞だ。ちなみにこれは電報を送る際の言葉ですが、今はこんなの使わないからピンと来ない方もいるんじゃないだろうか。なお部長が伝えたかったのは「巨大ナル魔神ハマダカ」である。

 さて、個人的にはこの映画、ゴジラシリーズの中では最高の面白さを誇っていると思う。一般的には第一作目の『ゴジラ』が怪獣映画の金字塔とされているが、何も金字塔は一個だけとは限らない。

 ここでちょっと『ゴジラ』について書こう。『ゴジラ』のアイデアの元は、当時の大事件だった第五福竜丸事件や広島・長崎の原爆まで(実際「せっかく長崎の原爆から命拾いした身体だってのに」という台詞もある)、とにかく「放射能」や「原爆・水爆」というものを真っ向から取り入れて作品中に繁栄させている。無論その要素を取り入れた故にこの映画には「重さ」というものが誕生したが、怪獣が大暴れするという娯楽的要素もきちんと描いた。重さがあるけど娯楽、ただ単に放射能の影響で怪獣が出現してさあ大変、では終わらない。だからこそ『ゴジラ』は今なお揺るがぬ高い評価を得ているともいえる。

 しかし本作が面白いのは、世の中をそういう姿を真っ向ではなく滑稽に描くあたりがいいのである。『ゴジラ』の時と時代背景は全く違う。高度経済成長を向かえ、オリンピック景気に沸き始めた日本だ。テレビ時代を向かえて、スポンサー各社はあの手この手で宣伝をしようとする。何せ今までの広告と違って、あっという間に何千万という人に映像と音楽で製品の説明が出来るのだ(奇しくもテレビ受信契約者数はこの年に1000万人を突破している)。多胡部長のように躍起になるのも無理はない……とはいえないかもしれないが、相当の期待があったのはいうまでもない。やがてその部長にとって最高の時が来る。話の後半になるとキングコングは日本に連れてこられるのだが、大喜びした部長はコングをパシフィック製薬の宣伝に使おうとする。

部長「新聞には全紙広告だ。キングコングが我が社の製品を抱え込んでニコリと笑っている写真だ」桜井「あの、キングコングが笑いますか?」部長「笑って頂くんだね。えーとキャッチフレーズは……“ゴジラなんか一捻り、パシフィック製薬の薬を飲んでるからね”“…からよ”“…からさ”。なあ、どれがいい?」

 いきなりこれである。しかしよくよく考えると、部長は『モスラ』『モスラ対ゴジラ』でいうところの、小美人を見世物にしようと企むジェリー伊藤佐原健二と全く同じポジションにいる。人間の欲深さ云々を真っ向から描けば確かにそうなるが、滑稽に描けば多胡部長になるはずだ。

 ……そう、この作品の痛快さは、ここにある。真面目に描けば嫌味になるキャラクターも、「笑い」を交えギャグとして描くことで断然面白くなる。この辺はやはり当時流行の「サラリーマン喜劇」の影響(製作は同じ東宝)かもしれないが、それさえもネタにしてしまうあたりが画期的でもある。そして多胡部長のパワーは、そのまま当時の高度経済成長を迎えた日本そのもののパワーとダブるのだ。怪獣を連れてきて一発何か仕掛けよう、というのはオリジナル版『キング・コング』でカール・デナムがしたことだ。それと同じことを、日本がやっている。不思議なのは両者とも“島から連れ出されて可哀想だ”という悲壮感があまり無いことだ。どちらも“島から連れ出そう!”という人類の勢いの良さに満ち溢れている。そこに悲壮が入り込む余地は全く無い。『キング・コング』が公開された頃の、エンパイヤ・ステートビルを建ててしまうようなアメリカが持っていた勢いに、30年経って日本がようやく追いついたのだ。

 だが、連れてきたまでは良かったが、人類は2頭の怪獣達を制御することは出来なかった。復活したゴジラに対する“埋没作戦”は失敗、“100万ボルト作戦”は一応成功するも、コングに対しては逆に帯電体質という特殊能力を与えてしまう。さらにコングはふみ子(浜美枝)を手にして東京を闊歩する。攻撃は出来ない、さあどうする?という時に登場するのが“ファロ島の祈り”なのだ。

 これが、本作の文明批判だと思う。文明の力でコングを圧倒するのではなく、自然の中でコングの伝説と共に生きてきた者達の“歌”が、コングを本当に眠らせた、というのがポイントである。さらに前作『ゴジラの逆襲』で氷漬けにされたゴジラが北極で復活したことに関して、平田昭彦演ずる重沢博士は「冷凍冬眠の状態で生きていた」と推測し、さらに一言付け加える。

「……だからさ、ゴジラが生きていたって不思議は無いだろう。ただ我々が“生命力”というものについて未だ何一つ判っていない、というだけのことだよ」

 博士の言う“生命力”を“自然”と置き換えても、意味は通じる。人類は確かに文明の力を得た。だがそれで自然を圧倒した気になるのは、余りにも愚かだ……というのが、本作の文明批判である。この映画が上手いのは、真っ向から絶叫しているわけではないが、話の流れの中でさらりとこなしていること。鼻に付かない、嫌味にならない程度にやっているからいいのだ。

 上手いといえば、話の組み立て方もそうである。笑いを交えた人物描写は主人公達や多胡部長に関係するキングコング側で展開され、自衛隊や科学者達の比較的真面目なトーンのそれはゴジラ側で展開される、という二元構成だ。にもかかわらず、あの繋がりの良さは何なのか?両者に目を向けつつ、話が途絶えることなく流れていくところが凄い。そしてこの2つの展開が後半のクライマックス、タイトル通りの「キングコング対ゴジラ」で一つになるあたりも実に良い。

 本作は小学校低学年の時ビデオで始めて観たが、夕食のハンバーグさえ喉を通らないほどドキドキしていたのを今でも覚えている。それから十余年、怪獣映画を観るのにそんなにドキドキすることも無くなった……と思ったら、そうでもないんだなぁ、これが(笑)。映画に対する観方は随分と変わったが、本作に対する評価だけは今も変わらない。

 ……さて、コメント部分ではあの台詞を紹介したけれど、他にも気になる台詞は山ほどある。

「聴取者は何を望んでいるか、これが宣伝の本義だ!テーマだ!分かっとるのか!」/「もう一口ピンチヒッターだ」「金なら無えぞ」/「あら兄さん、入る時はノックぐらいするものよ」「ヘッ、ノックもトスバッティングもあるもんか」/「重大ニュースはここだ、これ以上のニュースは無い!」/「おいコンノ、俺達は友好使節なんだからな、いいか?」「バーベキューになりにきたんじゃねえんだからな!」/「おい、ウォーって言ったよ」「……言ったよ」「おい、雷はウォーって言わないよねえ……」/「あの、映画もです」「食堂でも“ゴジラ焼き”てのが出てます」/「おい、どうしたんだ?」「タコだよ」「何、宣伝部長が来たのか?」「タコだよ!」「だから宣伝部長の多胡さんだろ?」/「これを押すとキングコングがパーですよ!」「パァ?」/「やや、ご苦労さん、パシフィック製薬、薬はパシフィック製薬、キングコングの、私スポンサーでして」/「部長、旗色悪くなってきましたね」「負けちゃいかん、負けちゃいかん!」/「何言ってやんでぇ、ゴジラだって跳ね返した100万ボルトだぜ、エテ公なんか一発でパァだ」「だからやってみなくちゃ分からんだろ」/「バカヤロー!!ふみ子を返せ、返せーっ!!どうしようってんだコノヤロー!!」/「さすが宣伝部長良いアイデアですね」「キングコングを殺してしまっては元も子もなくなるからね」/「英雄並び立たず、双方共倒れ。そこが付け目です」「え、共倒れ?」/「畜生、キングコングがローストチキンになるぞ」/「ポパイにほうれん草食わしたようにか?」「ああ」/「博士、キングコングが南方海上に逃れます、どうします?」「このまま帰してやるんだ。きっと南の島が恋しいんだよ、そっとしといてやろう」「部長……」「仕方が無いよ……諦めよう……」

……ありすぎだ、俺(笑)。

(評価:★5)

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