コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 戦争と平和(1968/露)

日本の最果てに立てば、その姿が臨めるという北方四島を統治下に置くロシアは、ソビエト社会主義連邦共和国の時代も、ロシア帝国の時代も、ヨーロッパの一国であったという当然の事実と、そこに育まれた全ての芸術へのこだわりを再認識させてくれる超大作。
ぽんしゅう

〔第1部〕アンドレイ・ボルコンスキー

ナポレオンの侵攻におののきながらも繁栄を謳歌するロシア帝国。国家のために従軍するアンドレイ(ビャチェスラフ・チーホノフ)と生きる目的の定まらぬピエール(セルゲイ・ボンタルチェコフ)。アウステルリッツの戦に動揺する時代の空気と状況は、二人の青年に生と死の意味を問い続ける。・・・大空を軽やかに飛翔し人々を俯瞰する何者かの視点と、深い森の草木や静かなの湖水の中から自己を問う視点。この二つの客観的映画視線が印象的。

〔第2部〕ナターシャ・ロストワ

第1部でアンドレイに生きる意味を想起させた少女・ナターシャ(リュドミラ・サベーリエワ)の恋愛を夢見る幼い自尊心はアンドレイと自らを傷つけてしまう。前回多用された客観的視点は導入部のみで、カメラは徹底してナターシャを中心に人間を追い続け、優雅な上流生活の裏での葛藤をあぶり出す。・・・ナターシャのダンスにはロシアが新体操やアイスダンスなどスポーツの世界でみせる、あの躍動美と優雅さが存分に発揮され思わず時間を忘れて引き込まれる。

〔第3部〕1812年

フランス軍の侵攻が再開。繁栄を謳歌しつつもナポレオンの飛ぶ鳥落とす勢いに、さしもの帝政ロシアの貴族も軍人も浮き足立つ。映画の三分の一は、このボロジエの戦いの描写に費やされる。このシーンに費やされたであろう莫大な“人と金と手間”は、当時のハリウッド超大作スペクタクル映画の比ではないと思われ、ソ連の威信をかけた全世界の映画界、とりわけアメリカ資本主義への示威行為ともとれる。その映画的完成度も高く、ロシア人の芸術的センスと誇りの高さに改めて感動する。

〔第4部〕ピエール・ベズーホフ

ナポレオンのモスクワ侵攻にいたって、ピエール公爵は一般民衆に交じりその戦火に身を置く。燃え盛るモスクワの街の描写は延々と続き、日本でいう無間地獄の様相を呈する。ピエールがそこで見たものは、いや感じたものは死ではなく生まれてはひしめき合いながら消えていく泡のような“命”のありよう。人間は人間の最も愚かな行為の中で、ようやく人間の存在の真理に行き着く。 そして、営々と生を営み続ける。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (2 人)スパルタのキツネ[*] uyo[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。