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[コメント] 稲妻草紙(1951/日)

スターシステムのお約束にきっちり沿った話 [Video]
Yasu

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







日本の時代劇映画には、歌舞伎から引き継いだ「立役・二枚目」の伝統がある。

「立役」とはヒーロー役の男性のことで、武道(剣)にはやたら強い反面、恋愛は決してしないというのが約束ごととして成立している。立派な男は恋愛などしないという儒教精神に基づくものらしいが、西洋の騎士道物語に出てくるような「剣の腕も立ち、なおかつ恋愛もするヒーロー」とは違うわけだ。

その立役がやらない恋愛沙汰を引き受けるのが「二枚目」である。二枚目は武道に秀でた男らしくたくましいヒーローではなく、どことなく頼りない、女に頼っているような優男と相場が決まっている。立役とこの二枚目の間にはきちんとした線引きがあり、立役のような男らしい主人公が二枚目のような恋愛をする話というのは(少なくとも時代劇では)成り立たないとされていたらしい。

戦前からの時代劇スターだった「阪妻」こと阪東妻三郎は典型的な立役だった。そして、一旦方向性が決まったスターは易々とその方向性を変えることはしなかった。立役で人気が出たスターはそのままずっと立役で、たまにでも二枚目を演じるということはあり得なかったのである。

この話でも、お雪は舩来(三国)を捨てて有馬(阪妻)とくっ付くのかと思わせておいて、最終的には再び舩来のもとに戻ることで、阪妻は立役としての役目をを完うするわけだ。阪妻はあくまで立役であって、二枚目であってはならないのだ。これは個人的な意見でも何でもなく、当時の観客(と製作者)がそう思っていたということに過ぎない。

(評価:★4)

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