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[コメント] ハスラー(1961/米)

エディは負け犬にはなりきれなかった。なぜなら彼が正真正銘の狼だったから。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 ハスラーとは勝負師。そして勝負は勝つか負けるかのどちらかでしかない。その冷徹な現実を突きつけてくれた。冒頭でのニューマン演じるエディはまさしく狼だった。

 最初の勝負において、エディは言った。「勝負は奴が根を上げるまでは」と。そう。この勝負とは、金だけでなく、ハスラーとして生きる全てをかけねばならない勝負だった。そこで酒を飲んで手元を狂わせたエディと、最後までベストの状態で戦おうとしたファッツの違いが出てくる。

 よって、負けた者は文字通り“負け犬”となるしかない。中盤のエディの崩れ方は、まさに犬のような生き方で、自分の行く道も分からず、流されるまま酒を飲んで盛っているしかなかった(失礼)。このままだとケチな勝負師として、それこそ野垂れ死ぬしか無かったはず。

 それだけの映画である可能性だってあっただろう。実際そう言う映画って多いし。

 だが、ここに“動機”が与えられることで、彼の再起を可能とする。勿論それが野良犬としての彼の情交の相手、サラであったのは非常に暗喩に富んでいるだろう。彼女の死と言うのが喩えようもなく重いものであったのは、結局は彼は野良犬になりきれなかった、狼としての本性がそうはさせていなかったと言うことを再確認させた訳だ。彼自身の問題として自分自身の本性に気付かされていくシーン。その過程をここまで丹念に描いたことがロッセン監督の凄さだ。

 それで最後の戦い。完璧な対戦相手であるファッツを対戦相手とすることで、エディの復活ぶりが際だつ。狼の噛み合いは、よりタフな者が勝つ。最初にファッツによって提示されたテーゼがここで活きてくる。

 これを“パターン”と言い切ってしまうのは簡単だけど、勝負の世界というものを本当に丹念に描いた本作品の出来はやはり見事だったし、非常に強い印象を私に与えてくれた。

 惜しむらくはこれ程のピリピリした勝負をしていたエディが『ハスラー2』ではゴト師にまで堕ちてしまったことかな。『ハスラー』から『ハスラー2』に至るまでの時間に何があったのか、それを語ってくれる人がいればなあ。

(評価:★5)

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