[コメント] 踊る大捜査線 THE MOVIE(1998/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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映画はもちろん娯楽であって現実のコピーではない。しかし、この映画は、エンターテイメントとしての仕掛けが行き過ぎているところが多い。
白眉はクライマックスで、刺された青島(織田裕二)を肩に担いで運ぶ室井(柳葉敏郎)。このスローモーションの絵柄がこの映画の指向を象徴している。
事件は解決、しかし青島は傷ついた。スローモーションの中、鮮血に染まる青島を運ぶ室井。二人の間にある友情や確執が、全編(もちろんテレビシリーズも含めて)を通し全て集約されたシーンなのだから、あそこで泣いたという人がいるのもよくわかる。
しかし、一見感動的なシーンに見えるが、戦場の負傷兵ならともかく、あれだけ失血しているのに戸板にも載せないのだからヤクザ映画のヤクザ以下。要は救急車で運ばないことと合わせ技で“泣かせる”演出”をしているのだ。
もちろん、映画ではエンターテイメント性がリアリズムより重視されるのは当然だ。しかし、「本店と支店」といった警察機構の内部描写を売りにしていながら、その一方で突入現場に救急車や消防車両がいないという「仕込み」をしておき室井に青島を車で運ばせる。しかも室井も恩田(深津絵里)も大イビキをかきはじめた青島が、脳硬塞である疑いなんてこれっぽっちも持たないのだから、ご都合主義がすぎる。世界観よりも観客に対して扇情的であることを選んだということなのだろう。
感動の「敬礼シーン」にしても、制服で外勤中の柏木(水野美紀)が制帽をかぶっていないのは彼女を目立たせるための絵作りだとしても、敬礼の角度がおかしな警察官が何人もいるのだからひどく興醒めだ。つまり、作り手はあざとさのトッピングには熱心だが、映画をキッチリと作り込む必要はナシ、としているのだろう。「こんなもんでいいんだよ、客はこんなの好きなんだから」と半可通ぶる顔が目にちらついてしまうとなると、被害妄想が過ぎるのかもしれないけれど。
しかし、邦画では客が入らないという現状で、あれだけの結果を出したことは素直に評価したい。それにしても上質な映画として作られたことの結果ではなく、仕掛けの巧妙さが成功したということなのだろう。少なくとも、あれだけあっけらかんとレクター博士をコピーしているのだから、本筋で勝負しているとは言えるはずもない。
送り手が確信犯なのであれば、良き観客ならそれを折り込んだ限定的な賛辞しか送れないだろう。
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メーカーなどによると、ビールを飲むときの適温は3度とか4度とか言われている。なので、冷凍庫で氷の粒がつくほどに冷やされたグラスが、ビールの温度を下げ過ぎてしまえば旨味は損なわれてしまうことになる。しかし、冷たさにシズル感を刺激される人は、そういった過剰サービスを好む、というのも一面の真理。
それを喜ぶ層があるボリュームで存在するのであれば、そういうホスピタリティを設定するという手法はもちろんアリ、だろう。
ただし、氷ったグラスで飲むビールを好きな人がアイリッシュパブに行ったとして、「ギネス飲んだんだけどなんかぬるくて」と言ってしまえば、
それは「酢豆腐」だ。
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キネマ旬報データベースに、この作品は収録されていない。
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