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[コメント] ガープの世界(1982/米)

あの原作を映画化するのにこんな方法もあるんだな。感心。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 原作作品は文学者としてのアーヴィングの特性を見事に表していて、非常に物語自体がすっきりし過ぎている作りとなってる…悪く言えば、起伏が少なすぎる。

 構成として、一人の男の一生を描くのに、短編をいくつも重ねるという形式となっている。一つ一つの物語に盛り上がりはあるし、きちんとまとまっているのだが、それが全体的にまとまってみると、とてもあっさりしたものになってしまう。

 これがテレビ作品だったら映像化に問題はない。一つ一つのエピソードを一話にすればいいだけ。しかしこれが映画になると、途端に難しくなってしまう。2時間の中にちゃんと一つの物語として収めねばならないというのは、結構大変な素材でもある。

 こういう場合、映画にするにはいくつかの方法がある。

 一つには、エピソードのいくつかを再解釈して拡大させ、他のエピソードを切り捨てる方法。この場合、最初からこの作品を映画にするのは無理と判断してしまうことになる。何本かの続編を作って、ようやく一本の作品になる。

 もう一つ、そしてこのパターンが大半だが、最初から映画向きに脚本を作ってしまう方法がある。これだとすっきり一本の映画に収まる。ただ、この方法だと原作の持つ雰囲気をぶち壊してしまう事にもなってしまう。特に雰囲気が重要な文学作品に対しては、これは致命的な事態に陥る。

 それでロイ・ヒル監督が採った方法は、そのどちらでもなかったところがおもしろい。

 この作品を作る際、監督の採った方法とは、原作通り、ミニストーリーの連続にしてしまったということ。この場合、本当に原作そのままに作られるという事で、原作のファンにとっては理想的な形の映画化となる。しかしながら、元々映画向きでない物語をそのまま映画にしてしまった訳だから、当然映画としては大変あっさりしたものに仕上がる。

 だから、本作を映画として面白くするには、物語以外のところに魅力を付けねばならないのだが、それに監督はキャラクタを用いた。

 本作に登場するのはやや濃い目のキャラが多い。一番は母親役のクローズで、この人の演技は控えめなのに、烈女といった感じの女性を見事に演じきっていたし、本作が実質デビュー作となるウィリアムズも既にこう言った演技方法をものにしてる感あり。この人の場合、ちょっとだけ一般人よりもエキセントリックな人格を演じるのは名人だな。

 物語とキャスティングの絶妙な噛み合わせがあってこそ、本作の魅力が引き出されることになる。それを引き出したロイ・ヒル監督の実力も相変わらず流石だ。

(評価:★4)

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