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[コメント] ニンゲン合格(1998/日)

これも例えば『蜘蛛の瞳』なんかのテイストを踏襲した全編ジョークのような演出ばかりだ。主人公-西島秀俊が14歳の精神年齢であることをエクスキューズのようにして、ある種の子供っぽい唐突さを盛り込めたのも、功を奏している。
ゑぎ

 例えば、唐突に引きずられ、引きずられまいとする西島。段ボールを足でつぶす西島。他にもグレープフルーツジュースを求めて自販機をハシゴするシーン。父親の菅田俊と競争するように走る横移動の運動。鈴木ヒロミツに石を投げつけるショット。夜中の古本屋襲撃シーン。あるいは無邪気にも見えるポニー牧場やミルクバーの建設と破壊。しかし、彼のその時々の態度は実に泰然としていて、意志強固にも感じられ、彼が一番成熟しているように見えるのも面白いところだと思う。

 また、西島を中心に動作や運動の途中からカットを繋ぐ(始める)といったカッティングが頻発するが、唐突に画面の中に人物を登場させる、ぶつ切り感のある編集も、不穏なムードを持続させる要因だろう。大杉漣役所広司も菅田俊もりりィもその登場ショットでは唐突に画面の中に存在する。麻生久美子哀川翔の乗る赤いスポーツカーはフレームインして出現するが、しかし2人のツーショットはやっぱり唐突感のあるものだ。あとは、これもお得意の、と云いたくなるが、部屋の奥の暗いところに人が立っている幽霊モチーフの反復。

 そしてこれはプリプロダクションにおける設計段階でのアイデアが大きいと思うのだが、終盤のテレビニュースの演出にはぶったまげた。船舶事故のニュースの途中で電話がかかってくる、そのタイミングの秀逸なこと。いやそれ以上に、生存者のインタビュー場面で麻生がテレビをミュート状態にするのが凄い。テレビを見ながら、まだ喋っているよ、みたいなことを云って笑っている。それを西島もりりィも受容し、このシーンの最後に西島と哀川が視線を交錯させるように切り返して繋がれるのだ。いやぁこの演出にはシビれる。

 あと惜しむらくは、洞口依子の微妙な歌唱だ。ライブハウスの店内をトラックバックしながら見せる長回しは素晴らしいものだが、これは同録なのか、音量レベルの定まらないフワフワした歌唱に聞こえてしまって、私は残念に思った。もともとこの人の歌い方なのかも知れないが(いや『ドレミファ娘の血は騒ぐ』のラストの歌唱は、もっとしっかりしていたが)。

(評価:★3)

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