[コメント] ライフ・イズ・ビューティフル(1997/伊)
映画を見終った人むけのレビューです。
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まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
何故この作品が評価されるのか。それは一つには、極限状態における父親の子供に対する絶対的な愛情を描いている点によると言えよう。だが、そのために戦争とホロコーストをダシにしていいのだろうか。アウシュビッツは映画の中の演出で完結しているわけではなく、現実に今のポーランドに存在しているのであって、そこで家族を理由なく虐殺された人々、そこから生還した人々というのがこの世の中に実際に存在しているのだ。
それを、このような得体の知れない歪んだ描写をすることが許される筈がない。私は、ここに否定的なコメントをしている人たちに激しく共感するが、その理由は人の生死が係っている状況において、このようなしょうもないジョークが発せられるとすれば、それが許される唯一の理由は「生き延びるため」であって、この映画に描かれているように自分の息子に現実を認識させないためではないはずだ。
以前に『アンダーグラウンド』のレビューで書いたが、アウシュビッツに収容されていたユダヤ人達は寝る前に一人一つずつジョークを言っていって心の平衡を保っていた、という話を聞いたことがある。
だがそれは、あくまで極限状況にいるという現状を認識した上での話だ。
ここで少年は(あり得ないと思うが)戦争で収容所に入っていることすら認識していない。それが彼のためになろう筈がない。本当に息子を愛しているのであれば、彼に現状を認識させた上で、生き延びて歴史を語るか、現状を打破する、または改善するための努力をさせるというのが父親としてのあるべき姿ではないか。それなのに、彼はひたすら嘘をつき通して死んでいく。人間失格と言わざるを得ない。
そもそも映画なんだから、という言い訳はここでは許されるべきではない。映画という手段が映像と言葉を伴って極めて強いメッセージを伝えることができるものである以上、ベニーニはそのメッセージの方向性を決定的に誤っている。救えない。アウシュビッツで死んでいった人たちも救われないだろう。
(2002.5.7)
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