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[コメント] 欲望という名の電車(1951/米)

映画で醜いものは観たくないので、作品として高評価は与えられないが、この女優ビビアン・リーに対しては、「醜い」が最大の賛辞ではないか。
G31

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 誰にとっても、「欲望」と折り合いをつけてやっていくのは難しい。とくに社会を維持する推進力として、「欲望」が必要とされるような世の中では。

 彼女(ブランチ=ビビアン・リー)が終始装う上品さは、彼女がかつて身に纏っていたものの名残ではあるが、もはや瓦礫でしかない。瓦礫でしかない上品さは、残酷で野蛮な世間(スタンリー=マーロン・ブランドに代表される)の前では無力だ。彼女がどこに逃げ込もうと、世間は必ず追い付き、過去を暴いて糾弾する。だが世間の持つそんな残酷さは、同時に瓦礫を取り除いてやる力もある。彼女に覆い被さり、彼女を押し潰す瓦礫をだ。だから、そんな瓦礫にしがみつき、ますます奥へと自分を閉じ込めようとするブランチの行動は、ある種の自尊心の高さによるだろう。自尊心こそ自分を最も傷つけるとは皮肉な構図だが、こういう人物像は・・・・・・、よく理解できる。

 上品さだけが、彼女の自尊心が許す世間との接点である。そして彼女の上品さを理解するのもまた世間だ。だからブランチは懸命に上品さを保とうとし、ことあるごとにアピールしようとする。それは世間に対する彼女の闘いである。否、世間に対する復讐であると言っていいかもしれない。なぜなら、彼女の高い知性は、自分の装う上品さが瓦礫でしかないこと、そしてそれを破壊して瓦礫にした張本人が世間であることを、本当は知っているからだ。だが、世間への復讐がいずれ自分を破壊するものであることは自明といえ、あまりに世間に無力なブランチの復讐を見ていると、憐れの想いを禁じえない。

 私には、ブランチの知性は、彼女の自尊心にひれ伏しているように見えた。とはいえ、誰も彼女の自尊心の高さを批難はできないであろう。せめて、本当にせめて、であるが、ラスト床に寝転がる彼女に手を差し伸べた老人男性のように、必要な時に必要なだけの優しさを発揮できる男に(できればジジイになる前に)なりたいと思った。現実社会でヒーローの活躍できる場とはなんともつつましやかなものである。

75/100(03/08/23記)(03/11/28一部書直)

(評価:★3)

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