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[コメント] 菊次郎の夏(1999/日)

冷めかけたお茶、もしくはぬるま湯のお風呂。感動も笑いも、どこか中途半端で、もどかしさの残る作品だった。
Pino☆

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 まず、ストーリーについて言えば、母親が出てきた時点で終わりだったように思う。ロードムービーとして捉えれば、母親の家に着いた時点で、既に終着駅に着いてしまったわけで、その後の展開は、子供の心がどう動こうとも、余り意味のある物にはならない。ある意味、蛇足である。

 だからという理由ではないかもしれないが、母親のシーンでは今一つ観客の心を揺り動かすだけの盛り上げが無かった。このシーンをラストに据えていたら、もう少し感動的な話になったかもしれないが、定番の作りはしないというのが監督の意図なら、仕方の無いところなのかもしれない。ただ、北野映画にしては珍しく長さを感じるほど、後半はダラダラした感じが否めなかった。

 また、コメディとして観れば、明らかに『みんな〜やってるか!』の失敗が悪い方向に出ている様に思えた。余りにオーソドックスなネタの焼き付け直しばかりで、新しい笑いにチャレンジするという姿勢は見えなかったのに加え(そういう意味では、同じ失敗作だが、『みんな〜やってるか〜!』の方が救いがある)、二の轍は踏めないということを必要以上に意識する余り、神経質な感じがスクリーンに出ていて、素直に楽しめる雰囲気を壊していたように思う。

 また、最初にオチを出してしまう演出のせいか(アイデアとしては素晴らしいのだが)、ネタもあっさりしていて、ここでもう一発というようなシーンでも、二段、三段オチは無く、妙にあっさり終わってしまって、正直、あのビートたけしにしては、味気無かった。

 但し、ネタの方向性として、話術をベースとした笑いが多くなったことは好感が持てた。やはり、ビートたけしの笑いは、基本的には喋りをベースとしたネタの面白さにある。だるまさんが転んだのシーンで、らっきょに対して、「馬鹿野郎。お前はハゲのおじさんだろ!」という非常にオーソドックスなネタがあったが、オチが分かっていても、絶妙なタイミングでツッコミが入れば、爆笑できてしまう。これは、少し嬉しかった。

 それにしても、コメディとしての全体的な完成度には、疑問が残った。今や北野映画のマーケットは海外の方が大きくなってしまったから、台詞を削り、動きで笑わすという方向に走らざるを得ないのは分からないでも無いが、日本人を笑わすのなら、やっぱり話術である。

 今後、北野武が、またコメディ作品にトライするかどうか分からないが、もし、次にコメディを作るのなら、今度は徹底的に話術で日本人を笑わしてくれる映画を作って欲しいというのが、私の希望である。

(評価:★2)

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