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[コメント] 風と共に去りぬ(1939/米)

フランソワ・オゾンが『エンジェル』で戯画的に描いたような勘違い女が、ラース・フォン・トリアーが『マンダレイ』で諷刺したような社会で右往左往する酷い話。だが、赤を基調とした陰影ある画面、ヒロインを愛しつつ冷めた目で見るレットが魅力的。
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







「英雄と淑女、主人と奴隷が居た古き良き時代は、風と共に去りぬ」。題名の意味が明らかになるこの冒頭の字幕で既に、作品の世界観そのものへの拒否反応を感じずにはいられない。奴隷制度の維持を掲げる南軍の「大義」とやらを、かのレット・バトラーさえ最後には支持するという、嗤うべき政治的無自覚さ。北軍が勝利した所から始まる第二部で早々に画面に現れる、馬車に乗った尊大な態度の黒人の姿などにも吐き気を覚える。

これでヒロインが善人だったら却ってその偽善に苛立ちを倍増させられただろうけど、約四時間通して幼稚で我が侭で厭味な女を貫き通すこのスカーレット・オハラの毒々しさには、いつしか面白味を感じさせられてしまう。多少は改心したりはするが、結局最後まで大して人間的に成長していないのが逆に凄い。そんな彼女をからかいながら愛し続けるレットも、最後は「貴方無しでどうすればいいの」と追い縋るスカーレットを、「俺が知るか」の一言で捨てて去る。この清々しいまでのクールさは、全篇を通して、観客のスカーレットに対する反感を浄化してくれる。

レットに限らず全体的に、個性豊かな人物達の配置のバランスが絶妙な点には唸らされる。ヒロインが分泌する毒が作品世界を汚染しすぎないように、巧く散らしてくれている。男どもから礼賛されまくる彼女自身が最も愛を傾けるアシュリーがそれを退け、また彼が愛するメラニーは、持ち前の善良さでスカーレットの悪意を無効化してしまう、等々。

この物語の最後に一気に前面に押し出される、タラという土地の存在。序盤でスカーレットが、土地の大切さを説く父と共に夕日に向かう場面や、第一部の最後でスカーレットが、土の中から飢えをしのぐ作物を掘り出して貪るように齧りつく場面(マミーの言う「小鳥のように少食に」という淑女の嗜みを捨てて)、第二部の序盤で、土地を買いに来た男に、手に握り締めていた赤い土塊を投げつける場面、土地にかかる税金の為に妹の婚約者を奪う場面など、随所にその存在は描かれていた。その半面、物語は専らレットやアシュリーらとの愛憎劇が軸であり、土地がどうこうという話は背景に退いていた。むしろそれ故に、全ての愛が破れようとするスカーレットが、土地に希望を託する台詞とその表情が、感動的なものとなる。僕は、このラストに至ってようやく、約四時間もの間嫌っていたスカーレットを肯定したくなった。

土地に侵入してきた北軍兵士を射殺した事についても、レットをどうやって連れ戻そうかという事についても、スカーレットは「明日考えよう」と独語する。この「明日」が有るのは、自分の土地が在ってこそなのだ。画面の大半で基調となっている鮮烈な赤は、タラの土の色でもある。

(評価:★3)

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