[コメント] 鳥(1963/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
僕が昔の映画に違和感なく入っていける理由は、時代が移り変ってそれが過去のものになっても、その時代に応じた楽しみ方が出来ること。本作を今の人が観ても、公開当時のような衝撃度はほとんど感じないと思う(かといって僕も当時の反応がどうだったのか、本とか読んで知っているぐらいだけど)。だが、ヒッチの語り口の巧さ(何故襲うんだろう、襲われるんだろう、そういった理由付けを見ているほうに考えさせないままに物語に引き込んだり、シャレた会話など)が、時代が変わろうとも、純粋に楽しめる作品にしていることだけは確かだと思う。そして、それはこの映画に限らず、ある程度古典として評価が定まっているような作品(個人的な好き・嫌いはあるにしろ)にもある程度当てはまることだと思う。
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ではこの映画について。主役の鳥について。
サンフランシスコにて。メラニーはペットショップに入る際、鳥の鳴き声を聞いて空を見上げる。鳥ははるか彼方を飛んでいる。
ペットショップの中にて。メラニーが鳥籠に入れられていた鳥を捕まえようとすると、あたかも反抗するが如き、建物の中を飛び回る。
次に鳥が現れるシーンは、メラニーがプレゼントとして鳥をミッチ家の玄関に置き、それをボートで見るシーンなのだが、そのとき、鳥はとても低いところを飛んでいる。最初のシーンからたどっていくと、鳥が、人間に近づいてきているのだと分かる。
そのシーンのすぐあとにメラニーは鳥に襲われる。
その後いくつかの伏線を経て、学校のシーンで、鳥が本格的に襲いかかる。
この構成力の巧みさは余人の及ぶところではない。
この映画で一番素晴らしいシーンは、カラスがジャングルジムに群がるところだ。メラニーは何も知らず煙草をふかしている。その後ろのジャングルジムにカラスが一羽ずつ集まってくる。メラニーが一羽を見つけそのあとを目で追うとすでにジャングルジムはカラスに占拠され、文字通り黒山のカラスだかりだ。その姿は、あたかもこれから人を襲うために相談しているようにも映る。
シュールな映像だった。たくさん集まることは恐ろしいものだ、それがなんであれ。
ラスト、鳥たちに見守られながら(そのシーンは、あたかも鳥たちに地球がのっとられてしまった風景のようにも映る)車で逃げていく人間たち。あっけない終わり方をするのが常のヒッチ映画には珍しく意味深であり、そこに絶えず新しいことを模索するヒッチの姿が垣間見える。
ヒッチは鳥が人を襲う理由として、「自然は復讐する」と答えているが、この発言はヒッチなりのリップサービスで、「理由?そんなものあるわけねえよ」が本音だろう。
ヒッチは「何を言いたいか」ではなく、「どう表現するか」により興味を抱いているふしが伺える。観客に期待すること、それは「考える」よりも「怖がれ」、ヒッチはそんな監督だった。
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