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[コメント] π〈パイ〉(1998/米)

πの研究という想像力の権化みたいなことを描くには決定的に力不足で、結局固定観念の呪縛から逃れられなかったくせに、審美眼の豊かな人にはウケるらしい。
ヒエロ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







πという無理数に潜む謎を追究するうちに、とうとう216桁の定数(つまりは有理数)を発見し、この定数が世界を形作る万象の根源であると認識するに至る数学者のお話し。

しかしねぇ、天才と言われる数学者って、もっと身の回りの自然への造詣が深いし、意味不明な電子回路に囲まれた狭い部屋で研究もしてないし、たった一つのチップだけで長大な数字の解析もさせないし、 おまけに、発見した数列が実は神の名前でしたなんて安直テーゼも用意しないと思うけどね。数学は、もっともっと深淵で美しい。

翻ってこの映画。冒頭は、神の数列を発見しそれを認識できる程の天才って、普段どんな暮らししてるのかとか、どんなよろこびや苦しみを抱えてるのかって描写をしているのかと思ってワクワクしてたら、金儲け狙いの怪しい組織に狙われたり、神の数字を奪おうとするカルト集団に拉致されたりと、途中から話があっちの方へ飛んでしまって支離滅裂。まぁ、いろんなシーンで未来世紀ブラジルっぽい所が顔出しますが、表面撫でてちょこっと真似してもらっても、こっちは全然面白くないわけで。 それに、碁盤を宇宙に見立てるのは、数学者の間では古くから好まれるメタファーだけど、でもそこで語られる言葉があまりにも稚拙で、ストーリーにはなんら貢献してないだろ。つまりこれも、監督の限界というか聞きかじりのネタを仕込んだだけで、全然深掘りしてないじゃんかと穿ってしまう。

「内に抱えた狂気を薬で抑えつけた天才数学者って、実はこんな感じ?」って言うそんな想像力の欠如した固定観念(しかもモノクロっていう固定観念の象徴みたいなもんまでオマケつき)が、この映画をつまらなくしていると思う。それに太陽太陽って連呼する割に、強い可視光を直視した時に感じる目の痛みを感じさせるほどには、全然眩しさがないし絵に出てないもん。ま、頭が痛いのは分かったけどw。しかしこれ、本当に撮り方上手いのか?しかも、サンダンス映画祭の最優秀監督賞なんだよね。

一介の凡庸な小市民に過ぎない小生にとって、この映画に栄誉を贈った審査員の方々の感性と知性は、それこそ神の領域ですが、碩学ならざる小生から、そんな見識豊かな審査員へ敬意を込めてある言葉を贈りたい。これは計算機科学のノーベル賞と言われるチューリング賞受賞の際に、数学者でありコンピュータ科学者でもある人物によって言われた。

「アートのないサイエンスは冗長になりがちで、サイエンスのないアートは正確性に欠ける」(※コメテ注、ここで言うアートとは日本語彙の「芸術」というよりも、もっと幅の広い「自然界に存在する造形の背景にあるもの」とか「熟練」とかの意味も含んでます)

この映画には、サイエンスもアートもないね。

(評価:★2)

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