[コメント] 天と地と(1990/日)
角川春樹の映画はいくつか見ているけれど、それほど悪い監督という認識ではないのだ。矢張りこの映画、キャラ造型というか人物の掘り下げは二の次とし、画面のスペクタクルを最重視した映画だと云えるけれど、世の評価は私の感覚だと、何か集団心理のようなものが働いているのか、と思えるもので、画面の見応えだけで、充分楽しめる映画だと思いました。ま、映画にドラマを求める観客が一般だと考えるなら、多くの人は失望するのかも知れません。主人公-榎木孝明もそうだが、ヒロインとして出番の多い浅野温子も、血の通わない人形のような扱いだし、両軍の軍師(渡瀬恒彦と夏八木勲)にはそれなりの見せ場があるけれど、他の武将たちには、ほゞ活躍の場がなく、野村宏伸や沖田浩之は、顔見せだけの扱い、というような部分は確かにウィークポイントだと思います。
しかし、例えば合戦シーンなんかでも、武田の本陣に攻め込んだ謙信が、信玄の不在に気づく、すると武田の鉄砲隊が出現し、銃撃される、という普通なら、絶体絶命の場面があるのだが、それが全く反故にされたように、次のシーンでは、謙信と信玄が川の中で二人闘うという展開だとか、あるいは、ラストの大勢の黒い騎馬の行進と、なぜか道を開ける赤い兵士たち、というような不思議な演出、この辺りを、なんじゃこりゃ?、と思う気持ちは分るけれど、私は、こういうのも面白いと思うのですよ。
ま、とにかく、丘のような高台から画面奥の沢山の人馬を見せるロングショットが何度も使われる、このロケ撮影の物量投入は凄いと思う。物見櫓の向こうに川を見せ、さらにその向こうに沢山の敵兵を見せるカットだとか、真剣に驚くべきロングショットだろう。合戦シーンは未整理だが、走る人馬をとらえた横移動撮影や、騎乗したまゝの武者が川へ落ちるカット、皆、芦毛馬に乗った20騎ぐらいの女武者たちが、あっという間に殲滅されてしまう場面の騎馬の動かし方だとか、個々のアクション演出には誉めるべき点がいっぱいあるのではないか。合戦のシーンではないが、榎木孝明と渡瀬恒彦が一騎打ちする場面での、望遠カットから大俯瞰に繋ぐカッティングや、上杉軍の本陣の中での評定シーンで、正面フルショットから、背後の視点へ、それもかなり遠くへ引いたロングショットへのアクション繋ぎ、あるいは、武田の本陣で、侍大将たちの周りをぐるっと移動して見せるカメラワークなんかも、よく見せてくれるのだ。また、撮影の良さは、桜の花が舞う、というか飛ぶカットを繋いだシーンや、雪や樹氷などの自然描写についても指摘すべきだろう。こう考えると、本作の主役は榎木孝明ではなく、前田米造なのだ、と云いってしまいたくなる。
あと、榎木孝明の騎乗フォームがカッコいい。手練れの乗り手と感じさせ、津川雅彦の信玄には勝ち目がないと思わせるものがある。中盤まで戦(いくさ)に同行している信玄の側室で女武者の財前直見も、しっかり馬に乗っていて、驚かされた。この人も、もっと活躍の場が与えられていれば、良かったのに、と思う。
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