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[コメント] 市民ケーン(1941/米)

残念ながら映画の神様はウェルズには降臨しなかった。映画の神様はどこに?
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







実は十数年ぶりに観て評価下がる。

ウェルズの才能は凄いとは思う。「弱冠25歳にして・・・」という世論も分からんではないが、若造だからこそこれだけ無茶な構図を考えついたんだと思う。むしろそれに応えたグレッグ・トーランドをはじめとするスタッフをほめるべきだ。(この映画が多くの映画人に与えた影響は計り知れないが、それはこの「無茶さ加減」に映画の可能性を見出したのであって、断じて「映画の教科書」などではない・・・と私は言いたい)

ちなみにこの映画が「世界で初めてパンフォーカスをした」と言われているが、「パンフォーカスは俺の方が先だ」と溝口健二が言ったとか言わなかったとか。 (さらにちなみに、演説するケーンと3階席辺りから見下ろす男と両方にピントが合っているシーンがあるが、あれはパンフォーカスではなく合成らしい)

このパンフォーカス(つまり画面の隅々までピントが合ってるってことね)ってのが曲者でさ、(技術的には被写体との距離を遠くして広角で撮るんだけども)、これが効果的な場合もあれば、かえって画面が平面に見えてしまうこともある。被写体深度が浅い(つまりパンフォーカスと逆ね)場合、背景がぼやけたりして奥行きが出る。雰囲気のある映画(写真)なんかは実は被写体深度が浅い画面が多かったりするのは私の気のせいかもしれないが、なんとなく画面の奥行きと話の奥行きは比例しているような気がする・・・のも気のせいか。それに家庭用ビデオカメラとかデジカメなんかはみんな焦点距離が短い(つまり広角)パンフォーカスだから、実は今時珍しくない絵だったりもする。

それはそれとして、ウェルズの才能はやっぱり凄いと思う。とかく演劇人はそのスタイルを捨てきれないものだが彼は「映画」と「舞台」の違いを分かっていた。『駅馬車』や『カリガリ博士』を何度も観て研究したそうだ。だからこそ出来た大胆な省略法、巧みなつなぎ。努力なしに才能は開花しないということか。

これだけグダグダ技術的なことを書いておいて今更なんだが、この映画で最も凄いところはこのジグソーパズルの様な話の構成だろう。なに?珍しくないって?この映画以前にこんな構成の映画が一つでもあるだろうか?(ひょっとするとあるのかもしれないけど)ちなみに日本では9年後の『羅生門』まで待たねばならない(本当は他にあるのかもしれないけどさ)。なんにつけパイオニアは凄いと思う。(<さっきはパンフォーカスを今時珍しくないとか言ってたくせに)

とにかく彼は才能あったんだよ。そこんとこ納得していただかないとこの長いReviewオチないからさ。

とにかく当時はあまりに先進的すぎて「反ハリウッド」「反アメリカ」とまで言われて(ある者には「コミュニスト」と言われある者には「ファシスト」と言われたケーンと一緒だ)、アカデミーも監督・脚本・主演の一人三冠ノミネート(これはウディー・アレンアニー・ホール』まで出なかった)されるも受賞はオリジナル脚本賞のみ。そしてウェルズはこの後一度たりとも自由に映画を撮れたことはなかったという。

こんなウェルズの一生は、「才能だけでは映画は撮れない」という事を我々に教えてくれた。

処女作にして不世出の傑作を撮り上げてしまった彼に「映画の神様」は降臨しなかったのだ。 では映画の神様はどこへ行ったのか?

こんなエピソードがある。

例の“ローズ・バッド”そりは3体作られたそうだ。撮影のため2体は燃やされ、残る1体はオークションに出されたそうだ。誰が落札したと思う?実はスピルバーグなんだよ(実話)。

(評価:★3)

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