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[コメント] 日本沈没(1973/日)

パニック状況下での人間ドラマなら、彗星の衝突だろうがビルの火災だろうが停電だろうが、どんな災害でも描ける。日本が沈没するという状況でしか描けない恐怖がある。大自然の強大な力を目の当たりにせよ!
空イグアナ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







当時は高度経済成長が下火になり、水俣病など公害が問題視されていた頃だ。五島勉の『ノストラダムスの大予言』がベストセラーになり、あの1999年の予言が有名になったのもこの頃だ。無駄に肥大化していく文明はいつか滅ぶのではないか、という不安が社会を覆う。今の環境保護の考え方は、この頃土台ができた。

この「アンチ文明」という考え方が『日本沈没』のポイントだ。パニック映画なら他にもたくさんある。人間ドラマもたくさん描かれてきた。割と最近でも『ディープ・インパクト』という映画があった。あの映画のテーマは当時の雑誌やパンフレットを見ると、「間もなく世界が滅びるとわかったら、あなたはどうしますか?」だった。彗星の衝突は、滅亡のための道具にしか過ぎなかったのだ。しかし『日本沈没』で描かれているのは、「間もなく日本が滅びるとわかったら……。」という問いかけだけではない。

「地球は生きている。」

竹内均(懐かしいなー。中学生の時、理科の先生がこの人のビデオをよく見せてくれた)による詳しい解説の後に出されるこの台詞、これこそが日本が沈没するという恐怖を通して描かれるテーマだ。日本沈没を予測する田所博士だが、その彼も「わからん。」「データが少なすぎる。」といった言葉を連発する。地球は人間の知恵では、まだまだ全てを解明するには及ばないのだ。

そしてついに関東地方を襲う大地震。「田所博士の仮説は正しかった」という説明がしたいのだったら、もっと短い時間で済む。それをいくつものカットで延々と見せる。ここは「観客よ、地震を体験せよ!大自然の強大な力を目の当たりにせよ!」という作り手の声が聞こえてきそうだ。

個々の人間ドラマを無視したからこそ描ける感動がある。日本や地球に比べれば、個々の人生などとるにたらない。「空から見ると、東京も捨てたもんじゃないね」というその文明も、もろくも破壊される。自然はなんと壮大なのか。

ラストは、日本を脱出した人々の表情は希望のかけらもない。彼ら乗せた列車は、見渡す限り荒野で殺伐としている。それはまさに、「危機は脱したものの、これから先どうなるのかわからない、行き先のない不安」である。

(評価:★4)

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