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[コメント] ウエスタン(1969/米=伊)

まさに伝統的な西部劇とマカロニウエスタンの見事な融合作品。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 かつてアメリカでは娯楽作品の定番として隆盛を誇った西部劇だが、時代の流れによってどんどん廃れていった。そんな西部劇は、イタリア、スペインやメキシコと言ったアメリカ国外の安く作られる国に活路を見いだし、より派手に、より過激な映像として作られ続けることとなった。いわゆるマカロニ(スパゲッティ)ウエスタンと呼ばれるようになった西部劇が一時期世界の娯楽へとなっていく。

 そんな新しい西部劇の中でも突出した監督として現れたのがイタリア生まれのレオーネだった。

 そんなレオーネが逆にアメリカに呼ばれ、完全定番の西部劇を作ったのが本作。

 物語そのものは実に健全な勧善懲悪ものであり、特に語るべきものは無いのだが、本作は二点、これまでの西部劇とは大きく異なった売りがある。

 一つは、レオーネの演出が見事に冴えていること。大胆なアングル、映像感覚、クレジット・タイトルの出方など、これまでマカロニで培った技術をふんだんに活かし、定番の西部劇がまるで違う斬新な作品となったということ。しかもこれを完全にこれまでの西部劇の手法に重ねて作ったため、これまでレオーネを監督として低く見ていた批評家を完全に封殺できたということが大きい。この妥協無い時代描写は、本来レオーネが持つ完璧主義をよく示していて、大作に真っ向から挑戦できる実力をよく示している。

 そしてもう一点が、これまでのキャラ描写を大胆に変えて見せたこと。主役級ガンマンの二人、ブロンソンとフォンダの役割だが、昔からのヒーロー役ばかりだったフォンダと、野性味溢れるブロンソンは対比すれば、アメリカ人監督が作っていたら確実に役割は逆になっていただろう。ところがレオーネはこの二人の立場を逆に描いて見せた。これはこれまでレオーネが作り上げたヒーロー像がこれまでのヒーロー像を覆すような、寡黙で常識外れな人物だったので、それをここに導入したということである。

 そしてこの起用、見事にはまった。これまでのヒーロー風演技をかなぐり捨てたフォンダの悪役っぷりは見事なもので、いつもあの爽やかな笑顔が、悪役になった途端、とてつもなくふてぶてしい嗤笑に見えるという、役者としての幅の広さを見事に見せてくれた(実は私は結構早い時期に本作を観ていたため、その印象があまりに強くて、以降西部劇で主人公役演じるフォンダの方が嘘くさく見えてしまったという悪影響も受けてしまった)。そして表情豊かなフォンダに対し、常に仏頂面でほとんど感情を見せない“奴”ブロンソンがはまっている。まるでターミネーターのように(逆だ!)無表情に雑魚をなぎ払うその姿は本当の強さを感じさせるし、最後に本当の目的を明かした時の、人間的な表情を取り戻すシーンは突出した演出だろう。

(評価:★4)

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