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[コメント] アニー・ホール(1977/米)

本作は元々「喜びを味わう能力に欠けている」という精神医学用語『アンヘドニア』という名前だったそうですが、プロデューサーが「このタイトルを変えないと窓から飛び降りてやる」と脅迫して題を変えさせたそうです。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 こよなくニューヨークを愛し、常にハリウッドとは距離をおいて映画作りを続けているアレン監督だが、本作がその出世作となった。これまでにも何本もの作品を監督、あるいは脚本しているが、これまでの作品は基本的にコメディ、しかも相当な自虐的コメディばかりで、そう言う監督としか知られていなかったのだが、ここで大きくその才能を見せつけることになった。一応本作もコメディとされるが、むしろこれは極めてシニカルな当時の風俗を捉えた恋愛劇と言った方が良い。

 そもそも本作はインディペンデントな個人企画として、ユナイテッド・アーティスト社から300万ドルをせしめて作り上げたもの。UAとしては、ここらで好きなものを作らせることで次のコメディを依頼しやすいと考えたことと、アレンには固定客が多いので、製作費がその位ならそこそこの黒字は出せるだろうと言う打算によるものだったらしい(何か日本の某監督とプロダクション某の関係に似ているような…)。

 ところが、蓋を開けたらこれが大ヒット。結果的に全世界で3600万ドルもの大ヒットとなったのみならず、コメディには渋いはずのアカデミーで作品賞までもたらしてくれた(コメディがオスカーを得たのは『トム・ジョーンズの華麗な冒険』(1963)以来)。予算は少なくてもしっかりとした作り方とアイディア、そして時代を上手く捉えることで傑作は出来得るという好例だろう。

 本作には多くのキー・アイテムが出てくる。それは例えばニューヨークの何気ない街角の風景とか、行きつけの精神分析医とか、男物の格好をした女性とか(この作品のヒットにはこの“アニー・ルック”の存在が大きかったと言われる)。これらはこれまでエンターテインメント中心のハリウッド製映画にはどれも存在しなかったものばかりで、等身大の普通の人間が普通の街角に立っていることで、観ている側の近親感を与えることに成功したからだろう。特にこう言う映画作りを好む日本での受けが良かったことも頷ける。そしてこれらのアイテムはみな70年代と言うものをきちんと伝えてくれている。時代をここまで反映させることに成功したのもアレン監督の実力そのもの。

 予算が予算が予算だけに、大スターは起用せずに身内と新人俳優を多数起用して本作は作られているが、本作を足掛かりとして後に大スターになった役者も多数おり、アレンの目の確かさが証明された形となった。事実ここでブレイクしたキートンは実際にアレン監督の恋人で(実は彼女の本名はダイアン=ホール。この物語自体が二人の実際の交際関係がベースになっているとも言われる)、更に脇を固めるキャラはクリストファー=ウォーケン、ジェフ=ゴールドブラム、シガーニー=ウィーヴァーなどが多数。2年後にはこれだけの出演者集めるだけでも大変になったろうに(ウィーヴァーは何度もオーディションを受けるが、どうしても受からず、オフ・ブロードウェイに出演していたところをアレンに見いだされたと言う)。中でもウォーケンは傑出。ほんのちょい役とはいえ、ここまで冥い目をした役者をよく見つけられたもんだ。精神的不安定にあるという役柄のアレンと並べると、次の瞬間に何が起こるか予想できなくて凄く緊張感を感じる。

 そう言うことで見事に時代の寵児となったアレンではあったが、本作は何かとゴシップも飛び出す作品でもあった。アレンとキートンの関係も色々言われたのだが、何よりもアカデミー作品賞を受賞したにもかかわらず、アレンはその日会場には姿を現さず、いつものようにNYでクラリネットを吹いていたという。アカデミー関係者を呆れさせたらしいが、逆にそれがアレンがハリウッドと距離を置いていることを宣言することとなり、逆に魅力になってしまうのが得なところだ(主演女優賞を受賞したキートンはちゃんと参加しており、劇中の姿“アニー・ルック”で登場。大いに会場を沸かせた)。

(評価:★4)

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