[コメント] 激動の昭和史 沖縄決戦(1971/日)
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冒頭で「フィクション」と謳われているものの(そりゃこれを「実録」と言ってしまってはシャレにならないけど)、悲惨なストーリー展開と悪夢のような執拗な死の描写。特に軍人だけでなく、一般の村民達に強制される自殺描写は鬼気迫る。手榴弾を手渡される傷病兵、鎌で子供の喉を掻き切る大人、皆で歌を歌った後、毒をあおる少女達、降伏勧告から間髪入れずに壕に投げ込まれる手榴弾や火炎放射器…
近年楽しい作品を連発する岡本喜八監督だが、彼の本当の実力は、まさしくこう言った救いのない作品にこそ発揮される事を思わせられた。ここまで描くか。と言うレベルをしっかり冷徹に見据えて撮る監督の視線には感嘆もの。
個人的な事だが、かつて沖縄でガマ(壕)の説明を受けた事があった。劇中にも説明があったが、沖縄は珊瑚礁によって出来た島なので、多くの洞窟が存在し、沖縄決戦の時は多くの村民がそこに逃げ込んだと言う。発見されないようにと真っ暗な中で生活を余儀なくされたのだが、仮に灯りを点けていたら皆が発狂していたのではないか、等と言われた。目で見えていなかったから、みんな正気を保てたとも…どれ程悲惨な状態だったやら。
そしてガマには自然と指導する人間が出てきたのだが(村の長老みたいな人が多かったようだ)、あるガマでは、かつて日中戦争に参加した人が、自分たちが大陸の人にした事を引き合いに出し、同じ事をアメリカ人がするものと仮定して皆に語ったという。彼らが出した降伏勧告は、全員を捉えて残酷に処刑するための方便だと主張し、結果的に全員自殺したそうだ。ただ、あるガマではかつてハワイに住んでいた人が皆を説得して降伏勧告を受入れ、結果的に全員生還したとも聞かされた。
ちなみに私が説明を受けたガマはチビチリガマというところで、何と1970年代になってようやく発見されたガマで、実は沖縄にはまだそう言う未発見のガマが残されている可能性が結構ある。
映画を観ていて、その時の説明がリアルに蘇り、ますますこの作品を観るのが辛くなった…
それでもあくまで冷静に、映画の出来として観てみると、主人公を統一しなかったので、大局的な見地から沖縄決戦を眺める方向性と、局地的な目で見つめる方向性とがかなりバランス良く配置され、資料映像などもかなり用いられているので(吉田満の「戦艦大和の最後」の朗読などもあり)、歴史好きとしては楽しめた。
それに子供の使い方が絶妙。戦争とは何ら関係のない、無垢な無力な存在としての子供を登場させる事で戦争の悲惨さをますます強調出来たし、冒頭の無心に遊ぶ子供とラストシーンの呆然と死体の転がる海辺を歩く子供の対比も見事。戦争映画に子供を効果的に使った作品としてスピルバーグの『シンドラーのリスト』があるけど、その20年前にこんなにちゃんと描けていた作品があったんだな。
この映画を特徴づけるものとしてもう一つ。爆発シーンがあるだろう。兎に角派手で特撮シーンには兎に角力が入ってる。爆発と言えばこの人、中野昭慶の腕が遺憾なく発揮された作品に仕上がっている。
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